午前0時の森

朧月も雲間に身を潜め
静まり返った夜の隙間
午前0時の森の奥で
ひそやかに晩餐会が開かれる

出席者は
ギラン・バレー症候群である盲目の老人と
始終舌なめずりを繰り返すゴブリンの子供と

三人は小さなテーブルを囲み
卓上に並ぶ
ベルモットやパイナップルや味噌汁や
アラビアータソースのパスタやトナカイのレバーや
月桂樹の葉から抽出したエキスで作られた金色のシチューなどには目もくれず
それぞれ独り言のように話し合うのだ

時間と空間は同一だと思うのだが、どうかね?
  と ギラン・バレー症候群である盲目の老人
聖書よりも肉体の方が正確ですよ。
  と 始終舌なめずりを繰り返すゴブリンの子供
そうだね。
  と 僕

この国をダメにしたのは野球と性教育とチョコレートだと思うのだが、どうかね?
  と 盲目の老人
イメージから生まれるのはいつも言語ですよ。
  と ゴブリンの子供
そうだね。
  と 僕

進化のスピードは引力に反比例すると思うのだが、どうかね?
  と 老人
電気を持つことで全てが単純に動くんですよ。
  と 子供
そうだね。
  と 僕

太陽は存在しないと思うのだが、どうかね?
  と
太陽なんて存在しないですよ。
  と
そうだね。
  と

意見が一致したところで
老人と子供はにっこり微笑み 手を取り合い
森の奥 さらに奥に消えていった
僕はひとり寂しく
冷めきった料理を食べきらなければならないようだ

ちらりと時計を見る 午前0時
針はゆっくり回転する……フリをする
そこで初めて僕は
心から納得したのだった

[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.009: Title by 朋田菜花]

投稿者

大阪府

コメント

  1. 今日WEB上に溢れている詩の大部分は作者の感情の吐露に利用されているが、トノモトショウの詩からはその感情がほとんど見えてこない。と言っても虚無感を表しているのでもない。感情が満ちているのだがそれを内に秘めて表に出さないのだ。快楽が満ちているのだがそれを内に秘めて表に出さない。その快楽とは脳の言語中枢を刺激される類のものだ。快楽とは結局脳の中にある。

    「午前0時の森」にはギラン・バレー症候群である盲目の老人と終始舌なめずりを繰り返すゴブリンの子供と僕という個性的な3人が登場するのだが「時間と空間は同一である」とか「聖書より肉体の方が正確である」とか「イメージから生まれるのはいつも言葉である」とか「進化のスピードは引力に反比例する」とかの意見を言いっぱなしにして全く議論することもなく最後には「太陽は存在しない」という意見で一致する。まるで知的なゲームのように気持ちが良いではないか。

  2. @たかぼ
    Amazonの名レビューだね。

  3. この噛み合わない議論(ですらない状態)からの終盤のある種強引に運命付けられるような収斂は確かに気持ちが良い、ではないか、てへ。

  4. トノモトさんのこの滲むような魅力って不思議だよなーって思っており、たかぼ先生の解説を読んで、そうか、内に秘めているのかと納得しました。

  5. 題も好きだし、その状況も好き。
    そして、宙に散りばめられたような言葉のやり取りがふしぎとおもしろいです。

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