再生

「生きていると感じた瞬間、僕らは死を恐怖する」

殿元聖 27歳
(現在・昭和83年)

僕と
俺は
ある一つの人格において
メタ・アイデンティティ化された
超然なる存在
神的なパラドックス
である
ところで
君は
誰であるか

「これって詩ですかねえ?」
「聞いてんじゃねえよ」
「これって生きてるってことですかねえ?」
「聞いてんじゃねえよ、クソ」

デレク・ハートフィールドなんて実在しない
僕はエンパイヤ・ステイト・ビルディングの屋上で
それを知った
だが
俺は詩なんて書いたことがない
あれは

羅列だ

想像の森にて
四人の電脳(彼等はネットワークを支配している)に出会った
「君は彫刻家だろう?」
いいえ違います、と答えようと思ったが
そんなことを主張して殺されるのは勘弁だし
あながち間違っているとも言えない気がして
「ある意味では」と、呟いた
「では、森の中心に君自身の昭和を作ってくれ、時代がようやく終わりそうだ」
僕は何も表現するものを持たなかったが
大きなチャンスでもあった

「俺が死んだら何が残る?」
「さあね、僕はまだ生きているだろうけど」
「じゃあ、俺のことを詩にしてくれよ」
「無理だ、僕は彫刻家なんだから」

僕が創造した性器のオブジェ
天を突き刺すように屹立し
世界に種子を撒き散らす
電脳たちは呆然としていたが
昭和は20年も前に終わっていたらしい
そのあいだに無数の人間が
産まれ死に
産まれ死に
死に
死んだ

[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.066: Title by 凛音(リオ)/麻生暁美]

投稿者

大阪府

コメント

  1. みんないつもありがとう。
    三部作のラスト。実際の現在は42歳です。村上春樹は別に好きじゃないです。
    そんなわけでよろしくね。

  2. さすがトノモトショウ(いや殿元聖)三部作。今回も僕と俺がより鮮明に語られていて、個々にもすべて良かったし、全体を通じてもやはり良かった。この熱量と力量を見習いたい。油の乗り切った42歳の4作目なら何をどう書くんだろう。最近寂しくなってる私はその心に詩で触れたい。

  3. 三部作ともとても良かったです。

  4. まず、この詩も好き。
    この詩から、(ギリシア神話の)エロスと、シヴァを思いました。
    そして、題が 再生。

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