冬の垣根

 あのミノムシを母はどうしたのでしょうか
 記憶が曖昧で覚えていないのです

 きっと
 さむい朝だった
 への字に口元曲げて俯く目をした娘が
 母に手を引かれ一軒家の自宅を出ます

 庭の垣根に糸の付いたミノムシが一匹

   「ほら。」
 若い母の指先が糸を摘んで
 小さな手のひらに乗せてしまった
 きっとその時
 娘を見る母の目は優しかったでしょう

 まだ通い慣れない保育園
 娘は手にするものを見つめるだけでなく
 握ってしまった
 親指に指吸いのタコがある左手で

 やっと お迎えに来てくれた
 母の両手が娘の左手に添えられると
 グーになっている指は解かれた

 ノンちゃんの手の中にあった
 ちいさな生命はへしゃげて
 生あたたかくなっていた

 とっぷりと日の暮れた庭の垣根に
 手をつなぐ母娘が帰り着く
 若い母はあの潰れたミノムシを
 どうしたのでしょうか

 暗いお庭の土を掘り娘と一緒に埋めたことに
 私ならしておきたいのです

投稿者

滋賀県

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