寒い季節
こっちは笑いたいことなんか何もないのにひとりの部屋でテレビだけが勝手に笑っとった、そんな日々が薄ら寒くてテレビは捨てた、受信料を徴収しに来たおっさんには事情を伝えて帰ってもろた、ある日どこの誰かよくわからん若い営業マンが学生相手に鼻息荒くマウントしに来たもんで、就活前の練習に営業トークでも聞いてやろうと部屋に上げてみた、ほんなら鼻もつまみたくなるような要領を得ない夢の話にバイト行く前に1時間も付き合うはめに、だからオレはそのプロセスとして百科事典を売ってるんだと意味のわからんロジックに満足げに彼は酔い、それを聞いて誰が百科事典を買うねんなと思ってたら、話を聞いてもらえた嬉しさが勝ったのか、百科事典は売れてないのに満足げに話を終えて帰ろうとするのを見て薄ら寒くなってドアを閉める、高校時代は大人しかった同級生、大学生活も終盤の3年ほど経った頃、その女子から突然話したいことがあると電話が鳴る、なんだよ今さら告白かよと会う約束、純白の毛皮のコートと別人格かと見違えるほどの目力に、それだけでも十分に薄ら寒かったが、連れて行かれたのはセミナー会場、そこには25,6の手指の太い大人の男性たちがいた、瞬時に悟るこの空気感、なんでおれやってん、おれならわかってくれると思ったんか、おれならかかってくれると思ったんか、膝と膝が擦れ合うほどの距離で並べた椅子に座らされ、見ず知らずの奴と面と向かって自己紹介、参加者たちは知らず知らずに自己崩壊、冷やかし半分面倒くせえなとはやくも後悔、会全体をどんな風に進めていくのかとしきりに観察、人生の出会いがどうのこうのと講釈垂れやがる、代わる代わる増員される幹部連中とおぼしき奴らを全員まとめて強めに論破、あんたらの出会いにいくらの金がかかるんだよって、ほんでその金は一体どこへ行くねんなって、おれはこれから旅に出るからなんならその金おれにくれよ、まあでも幸せなら手を叩いてりゃええわ、おれも一緒に叩いてやるわ、ただおれはここから同級生を取り返しに来たんやって、言うてはないけど言うたとしてもんなこた本人が望んでないねんから叶うはずもなく、相変わらずの一人相撲にまたしても薄ら寒くなってもうてそんなこんなでどうしようもないまましきりに悪寒がするわ悪寒がするわ悪寒がするわ
コメント
二十代の頃でしたか、
高校時代の同級生(そんなに親しくはなかった)から突然電話がかかってきて、
…いやあ、久し振りですね。
よろしかったら、ちょっと会いしませんか…?
これは勧誘だな、と判断し、
丁重にお断りしたことを思い出しました。
まあ、相手もノルマとかがあって大変なのでしょうが、
こちらとて、困ります。
最近は、ネットでやって来ます。
巧妙です。(寒い)
@長谷川 忍
さん、だいたいそんな頃に同じようなことって経験するんですね。私はあえてそう言うところに顔を出して真正面からどんなもんか見てやろうという好奇心と血気盛んがないまぜな感じでした。原宿の怪しいギャラリーとかも友人と歩いてて暇だからあえて引っかかりに行くみたいな。どんなトークで来るんだろうみたいな社会勉強ごっこですね。
この詩を拝読して思うことは、薄ら寒くなって とね、いろんなことに冷めた目で見ている自分が居ることを最近思います。そういう部分をこの詩はうまく表現しているなぁ、と思います。
@こしごえ
さん、ありがとうございます。
様々な事柄が薄ら寒くて冷めている自分が一番薄ら寒いということにあまり自覚的でなかったかも知れない20代だった気もします。今も昔も一人相撲ですが、当時、その同級生を取り返しに行こうと真面目に思っていた気持ちだけは、空回っていたにせよ今も信じてやろうと思っています。