四月の風が ~ハードバージへ~

 七月、焼けつく陽射しに倒れたとき
 おまえはゆっくり
 目を閉じることができたのか
 どう、と倒れたその肌に触れたのは
 青草だけだったろうか

 何が見えたろう
 福井の街並みか
 アスファルトの道か
 それとも
 敷きつめられた緑の芝か
 抜くべき馬に跨った騎手の背か

 何が聞こえたろう
 けたたましく響くクラクションか
 行きかう人びとの話し声か
 それとも
 おまえの名を呼ぶ声もある大歓声か
 勢いよくゲートが開く音か

 何を感じたろう
 毎日曳き続けた観光馬車の重さか
 御者が叩きつけた鞭の痛みか
 それとも
 天才の名をほしいままにした者に操られるまま
 縫うように馬群を割り最内駆けあがったとき
 がっちりくわえた馬銜の硬さか
 あるいは、その刹那 
 おまえが切り裂いた
 風か

 そうだ、わたしは信じたいのだ
 昭和五十二年、皐月賞の日に
 中山競馬場に吹いていた
 四月の風が
 時を超え
 牧場に横たわるおまえを
 包み込むように
 愛撫したにちがいないと
 旅路の果てに倒れたおまえを思うとき
 そう信じずにはいられないのだ

投稿者

兵庫県

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