湖空
どれだけか時間は過ぎたのかもしれない
マンションの玄関前の共用廊下で
手摺もたれて湖を眺めると
淡墨色した空から高度を下げてくる
鳶一羽が
湖畔の並木を転回する
どれも樹高に差のあるものでなく
並木は西の方角に見える
比叡山の稜線を
遠近法で突き抜ける
飛翔している鳶が樹へ舞い降りた
こんもりと枝葉茂らせた幹のてっぺんに
鳶の足が掛かると
しなる幹の上部から揺れ始める
北に 対岸の消え失せて
空との境目も無い湖空を背にして
凪を刻む雨霧の色がみえてくる
樹は己の軸を確かめるのに十分な時を使い
静止した
鳶は もう一羽の停空飛翔するところまで
上昇していた
濡れた路面に三台続く車の走行音
再びは舞い降りずして去る二羽の鳶を今しがた
見た筈なのに
もう どれだけかの時間を独り過ごした様に
思えてならない
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