お告げの鐘
久々に浅草の
老舗の喫茶店「アンジェラス」に行ったら
すでに閉店していた
「アンジェラスの鐘」は「お告げの鐘」
もう鳴ることのない、その鐘は
やがて記憶の風景に響くでしょう
昭和から平成へと渡る幾年(いくとせ)の
無数の日々に訪れた
作家は思案に耽ふけり、珈琲カップを傾け
友と友は語らい
恋人たちの手はそっと結び合う
レトロな三階建の
古時計の音が今も聴こえそうな
懐かしい空間よ
さようなら
時は常に流れ
あったものはすでになく
あの友の面影さえも、今はない
今宵は胸に懐かしい
異国の風景の塔の中
あの鐘は揺れている
さようなら、さようなら
の先に、新しい日は訪れ
あなたの思いを越えたある日
合図の鐘は、冬の澄んだ青空に響くでしょう
その日が早くても遅くてもいい
私は物語の合図を待ち
今日もそっと
目を閉じる
コメント
ひたすらに穏やかさやあたたかさを感じます。
暖かく、ゆったりとした雰囲気の中に
冬の冷たさがほんのり刺さります
服部さんのリーディングの声が、脳内再生されました
素敵です
記憶のアンジェラスのアイスコーヒーの中に入った梅を齧った、甘酸っぱい、ほろ苦い、味を想いながら読みました
たちまこさん
ありがとうございます。 今はない店の懐かしい雰囲気が伝わればと思います(^^)
那津さん
ありがとうございます。 ある詩人を偲びつつ、追悼の形にせずに書きました。
ティモさん
詩的なコメントをありがとうございます。アンジェラスといえば、のアイスコーヒーですね。
ほろ苦くも甘酸っぱい年齢になってきました。
移り変わりゆく時代と懐古、そして故人を偲ぶ情景に、服部さんの温かさが滲み出ている作品だと思いました。
時の流れの、懐かしさ、寂しさ、柔らかさが伝わってきます。老舗の喫茶店の閉店を惜しみつつ、でも、最終連は、小さな希望を含ませていますね。
渡さん
この詩に流れる時間と雰囲気を読みとってくれて、ありがとうございます。
長谷川さん
ありがとうございます。 安易でない希望をいかに伝える(伝わる)かは、僕の詩のテーマとして、じっくり探求したいです。
このまま、春日部で乗り換えたら、浅草に一本の列車で行けることができると、少し希望を持ち直しています。鐘の詩を読むと、家路を思いながらも、ちょうど家内から電話が鳴りました。偶然の想いが詩を確かにしているのかも知れません。素敵な詩ですねぇ。
いろいろな、見えない糸がつながっている感じです。