寮
おろしたばかりの制服の匂いが充満して
自分の位がひとつ上がったのを実感する
頭を丸めた新入りたちが世辞を飛ばすが
敢えて曲解
身分をわからせてやるのだ
先週の自分と爪の長さも変わらないが
その気になって椅子に深く腰掛ける
黙っていても珈琲が運ばれてきて
理由はないが飲まずに突き返してやった
しれっと廊下を歩いている奴がいたので
暇なら仕事をさせてやろうと
廊下の靴墨をひとつ残らず消せと命じてやった
飯を食う時間がなくなると反抗してきたので
廊下を走れば間に合うぞと助言してやった
あまりに本気で走るのでまた靴墨が増えた
皺はひとつもなかった
革靴も綺麗に磨かれていた
金属類の曇りもなかった
着こなし方も問題はなかった
特段注意するべき点がなかったので
全部が不備であるとし
全てをやり直しさせた
大声で気持ちの良い挨拶をされた
そこで彼を呼び止め
なぜ普段からその声量で報告をせんのかと問い詰めた
答えにつまり一瞬目が逸れたので
なぜ目を逸らしたのかと問い詰めた
よくわからんことを宣ったので
鏡の自分と目を合わせ続ける練習を明朝までやらせた
業務に支障は出ないのだが
文頭が揃っていない報告書であったので
やり直しをさせてやった
土産に始末書と対策案計画書もつけてやった
靴墨君が愚痴を漏らしていると耳にした
非常に腹立たしかったので
彼の物を全部窓から放り投げてやった
背表紙が綺麗に揃った本棚も
黒光する革靴も
皺ひとつない制服も
耳のそろったシャツもタオルも
今年のは出来が悪いとぼやき
吸いたくもない煙草をふかして
偉い
を実感するのである
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