Days of Wine and Roses
琥珀色のサウンドトラックが、
頭蓋骨の内側を濡らしていく
すっかり皺が減り、ツルンとした私の大脳皮質
鼓膜までねじこむイヤホンや
タイムラインを流れる電子文字で
刻まれたものが薄れ、腫れあがってしまった
指先は切れそうなページの手触りや
硬直したペンの握り方を忘れて戸惑っている
最初は赤茶けた髪一本の危機感のつもりが
いつの間にか束ねたシニヨンになって
もう肩にまで重く垂れ下がってきているようだ
そう、シナプスがつながらない
言葉が沈んでいく
『ノルウェイの森』では入り口で迷子になり
寺山修司の編んだ詩編がほどけず
ひとひらの名前さえも拾えない
はらはらと剥がれ落ちる記憶たち
重ねた年月の言い訳と
麻痺した回路を曝け出す上から
メイプルシロップとなって降り注ぐのは
重苦しい映画とは裏腹な
華やかなタイトルのサウンドトラック
Days of Wine and Roses
享受し続ける日々
それは何かを失っていく予兆
艶やかな旋律の裏に潜む堕落が
うすら笑いを投げかける
セピア色の時代から
現在(いま)を見つめたかのように歌う
薔薇色の下にある、怖さ
新しい蜜の一滴を味わった瞬間から
光のスピードで走っていく街
追いつこうとしても
もたつく足元
回転数が合わない琥珀色のメロディは
ゆっくり滴りながら
キーボードをたたく指先を
とろり、と濡らしていった
※Days of Wine and Roses
「酒と薔薇の日々」という1962年制作のアメリカ映画の主題曲
徐々にアルコールに溺れていくカップルを描いている。
コメント
大人になってから好きになったもの、スパイスとかお酒とかハーブとか、危うさとか、そういうものが凝縮したようなひとつの完成形を感じました。
たちまこさん、ありがとうございます!大人になってから好きになったものって、魅惑的ですよね。さらに色々なものに魅了されながら、書いていきたいです。
酔うとこんなに甘美な時間が訪れるのですね、重ねた年月の言い訳、というのが好きでした。思い当たります!
ティモさん、ありがとうございます!加齢を感じつつ、重ねた年月から見えてくる景色を書いていきたいです。
渡さんらしいテーマの詩ですね。この問題意識の詩は大事であると同時に、この時代の中で、いかに人はアナログ感覚を回復できるか、というのも大事なテーマで、渡さんはすでに両方の詩を書いていると思います。
服部さん、ありがとうございます!
深くテーマを読み取って頂き、感謝です✨時代を反映した詩も書いていこうと思います。
古い映画の情景と、音楽、作者自身の記憶、年月が、艶やかに混じり合い、独特の空気感がありますね。「タイムラインを流れる電子文字」というフレーズが新鮮でした。SNSのタイムラインというイメージは、私も、詩で書いてみたい題材なんです。
長谷川さん、ありがとうございます!作品を的確に捉えてくださって嬉しいです!長谷川さんのSNSを題材にした詩、ぜひ書いてくださいね
不朽なことと変化すること、この一卵性双生児が、この詩作のモチーフなのではと思いました。このモチーフは、作品に自在に取り込まれていて楽しいです。何回か読みましたが、その様子が見事に展開されている模様が読んでいても飽きません。印象的にしっかりと焦点を結んでいます。完成度がある労作ですね。少なからず僕の感想がうるさいかもしれないのです。微にいるところ詳しくは不勉強なのですが、コメントをお許しください。とても楽しい作品です。
竜野さん、ありがとうございます。深く読み込んでくださり、感謝いたします。