植物園
ある短編小説で
石蕗(つわぶき)
という花を知った。
男は妻から
花の名前を習っていた
石蕗もその中に含まれていた
黄色い地味な花だと
彼女は夫に話したろうか。
小説の筋をもう忘れてしまったが
石蕗という名前だけ
記憶の断片に痒く残った。
晩秋のころ
勧められ小石川の植物園を訪ねた
木々の鮮やかな紅さに添い
ゆっくり歩いた。
小径のかたわらに
黄色い
細かな花を見つけた
懐かしい名前が記されていた。
派手さのない
柔らかな佇まい
それでいて
見る側のいくつかの皮膚を
痒いまま剥がしていく。
夫と妻の温感が
よみがえってきた。
植物園の高台から
見馴れた都心の街が見える
たくさんの断片の集積に
私は呑み込まれていく。
コメント
可憐な花の色と蕗の香りが彼らと作者の温感と重なって響きました。
六連目、凄い表現だなぁ!と思いました。
本との対話と、花との対話が交差して、興味深いテーマの詩ですね。 詩の中の時間の経過も、印象的です。
情景が浮かび上がり、映画のワンシーンを見ているようでした。
ツワブキとよむんですねぇ、画像検索しましたが、小さいけど黄色に野性味があって、惹きつけられますね。
たちばなさん
植物園で偶然石蕗の花を見つけまして、そこから、以前読んだ小説のことがよみがえってきました。
花の佇まいから、人の温感を連想してみたのですね。
服部さん
向田邦子さんの短編小説でした。彼女の小説は好きです。小説の情景と、私自身の日常とを重ねてみたところがあります。
渡さん
晩秋の、東大小石川植物園の散策から、イメージが湧き上がってきた作品です。散歩詩のような感じでしょうか。映像を意識して書いたところは、たしかにあります。
timoleonさん
派手さはありませんが、たしかに野性味のある花ですね。晩秋から初冬にかけて咲く花です。最近、花を主題にした詩をよく書きます。