プランク時間のあとに
A) ご存知のように私たちはみな過去にいるのです。
B) どういうことですか? 現在ではないのですか?
A)では星を見てください。
B)それなら分かります。夜空の星たちはそれぞれの星までの距離すなわち何光年離れているかが違います。そのため一様に存在しているように見える星たちですが光が発せられてから地球に到達するまでの時間が違うので様々な過去の時点の星が同時に観察されているのですね。つまり私たちは決して現在の星空を見ることはできないと。
A)その考えを拡張してください。もっと近いものは?
B)太陽から地球までは光の時間で8分、月からは1秒です。つまりそれぞれ8分前、1秒前の過去を見ていることになります。そして光の速度よりも速いものはないので私たちはその時間よりも早く太陽と月の情報を得ることはできません。
A)もっと近いものは? あなたの目の前にいる私は現在の私ですか?
B)私とあなたにも距離があるのでほんの少しですがあなたは過去の人です。
A)では机の上のペンを取ってください。
B)取りました。
A)それは今存在していますか?
B)存在しています。
A)あなたが持っていると感じているその手の感覚はあなたの神経を伝わって脳に伝達されています。それにもほんの少しですが時間がかかっています。ですからあなたが持っているそのペンは過去のものです。
B)どんなに近いものでも、体に接していても、それを認識するまでに時間がかかっているため全てが過去のものであるということですね。私が目にしているこの世の全ての事象はそれぞれ異なった過去の時点に存在していたものであると。さらに自分が存在していると認識するのにもほんの少し時間がかかっているので私自身も過去の自分の存在を認識しているのであって現在存在していることにはならない。つまり現在というものは存在しない。存在しているのは過去のみであるということですね。
A)は大いにうなずいた。
その瞬間世界が消えた。
しかし彼らがそれを知るのはあとほんの少し時間が経ってからだった。
コメント
デジャヴかと思うほど、この話と似た会話を割と近い過去に読んだか想像した気がするなぁと不思議な既視感に浸りながら読ませて頂きました。それが何だったのか全く思い出せないので、これは予知としてたかぼさんのこの詩を読むことを直観していたのかと思えました。
@あぶくも
さん。それはきっとあぶくもさんがアカシックレコードにアクセスしたんだと思います。さすがあぶくもさんです。ありがとうございます。
@たかぼ
さん、アカシックレコードですか‼️
やっぱり全てそこに書かれちゃってるんですね。自分の作品「帳の向こう側」で、「陽光は8分19秒」と書いた頃に何か色々読み漁っていたのかとか、昨夜気になって眠れませんでした。
プランク時間、最新の物理学、私には到底理解が及ばないが故に魅力的なテーマをたかぼさんに詩におろして頂き、感謝です、ありがとうございます。
ああ、たかぼさんの分かりやすい詩行で興味深く拝読しました。
ただ、プランク時間というのを検索してみましたが、私には難しくてあんまり理解はできませんでした。ああ。
でも、この題と最終行で、詩としての詩の飛躍がなされていますね。そこが たかぼさんの詩人としての妙ですね。
@あぶくも
さん。「帳の向こう側」を再読させていただきました。8分19秒の過去の宇宙に思いを馳せて読み直すとまた味わい深かったです。ありがとうございます。
@こしごえ
さん。ありがとうございます。プランク時間、私もよく理解しているわけではないのですが、とても面白いと思っています。時間の最小単位??? つまり時間も実は連続したものではないってこと? 時間も距離も実はデジタルなものであるらしい、というのが最近の科学の見解のようですが、そうなるともはやSFを通り越して陰謀論に近いですね。こしごえさんには最終行と題との関連に注目していただいてありがとうございます。「ほんの少し時間が経ってから」というのがプランク時間のことであり、すなわちその瞬間ということなので、最新の物理学への皮肉と捉えていただいてもよいかと思います。
語彙が消えるほどにかっこいいです。
緊張感を保って読みました。
@たちばなまこと
さん。世界が消えたと言ったこの作者すなわち私は何者なのか? もちろん作者はAとBの上位にいるメタ存在です。しかしこの作者もそして読者ですら今この瞬間に存在しているかどうかは分からない。すべては過去なのだから。そういう感じで楽しんで頂けたのではないかと思います。コメントありがとうございました!
ここまで、元素化されちゃうと、言葉が、言語や、思考停止の袋小路にルンバがずっと留まっているような状態でバッテリー切れになりそうだけど、SF小説をカンナで薄くしたような空間が漂っていた。
@timoleon
さん。まさにプランク時間ごとに時間をスライスするとカンナで薄くしたような世界が出来上がりますね。この世はパラパラ漫画であったのかと。「涼宮ハルヒ」で未来人「みくる」が「時間は層状になっているのよ」的なことを言っていましたがこのことだったのか? でも心配ご無用。プランク時間をデジタルに移動することを私たちは連続(アナログ)と呼んでいるのですから、と私は思います。コメントありがとうございました。
不思議な読後感でした。美しいSF小説を1冊読んだあとみたいです。
@あまね/saku
さん。とても嬉しいコメントありがとうございました。