突然愛の言葉で
きっぱりと髪を切って来たおまえは
すべてを手放したのだと言う
まるで氷山が大陸から離れるように
きっぱりといままでの在り得た関係を引き離し
はじめて世界の原野に立つガゼルのように
そして、はじめてわたしの顔を正面から見つめる
それはわたしにとっては、最大の責任である
生きることの意味がすべて転換されるのである
アジアの大気のモンスーンのはやくも
巨大な雲が渦を巻き、発達する
水蒸気をつぎつぎに吸収して回転をはやめる
椰子の樹が大きく傾く
波がしらは白く叫ぼうとする
突然前に進めなくなる
きっぱりとこころを決めたとおまえが言う
小さな小屋などこの強い風に飛ばされるのだ
あきらかにおまえは生きる為に決断したのだ
ああわたしはいま、眼を開ける
完璧な台風の猛威の中で
わたしはひとつの真実の言葉を手にしたのだ
「いっしょに行く」と
このアジアの一角で
猛烈に風が吹いている
ただその風の中でわたしはおまえの手をにぎり
ただひたすらにその手を握りしめ
すすもうとするのである。
コメント
坂本さんの詩でははじめてではないでしょうか? 最初から最後までイメージが途切れていません。イメージが変化しながら拡散していくいつもの坂本さんのスタイルも独特で良いと思っていますが、これもアリですね。
突然に、唐突に、しかしだからこそあゆみたい、すすんでゆきたい、そんな風に思えたことの誉れ
またへの渇望、、、
ぼくもとても好きです。
坂本さんの詩は、どことなくヨーロッパを感じるのです。
@たちばなまこと
たちばなまことさんへ。なぜなんでしょうね? 自分でも良くはわからないのですが、湿度感があることへの忌避があるかも知れないですね。乾いている方が好きですね。地中海気候が好きですね。その辺かも知れないですね。
くっきりしたイメージが奔流していきました。