恋歌

恋歌

いつのまにか
齢を重ねてしまった

聞き役にまわることが
多くなった

人に
期待しなくなった

自分の機嫌は
自分で取る。

いつのまにか
潮が引いてしまった

さまざまなことに
淡泊になった

宵で顔を洗うように
涼やかになった

自分の追憶は
自分で拭う。

あるひとから
言われたことがある。

あなた、

こわくないから
安心する
大事なことですよ。

それは
褒めているのですか?

心にとどめておいてね。

恋はもうしないが
恋歌なら
口ずさめるかもしれない。

五月の
微妙な空色の下
ひとり街中を歩いている。
時々、あおくなる。

投稿者

東京都

コメント

  1. めちゃくちゃ心に沁みました。
    最後の「あおくなる」がダブルミーニング的に更に響きます。
    今、初上陸の立石で三軒目、いろいろひとりで物思いに耽りながらあおくなっています。

  2. 歳を重ねて、人に期待しなくなったというのは、私も同じでよくわかります。

    >宵で顔を洗うように
    涼やかになった

    この表現が面白く、印象に残りました。

    人生、黄昏ていくのは、切なくも美しく燃えることではないかな…と、この御作品を拝読して感じた次第です。

  3. @あぶくも
    あぶくもさん、ありがとうございます。最終連目、どういうふうにまとめようかなと、けっこう考えまして、あおくなる、にしてみました。この表現が適切だったのか、…今でも迷いはあります。

    おおお! 立石に上陸されましたか。良い町です。酒飲みの聖地であります。(^^)

  4. @渡 ひろこ
    渡さん、人に期待しない。もとい、人と、ほどよい距離を取る。…ということかもしれません。そこそこ長く生きて、それを実感しています。君子の交わりは淡きこと水に如し、ですね。私は、君子ではありませんけれども…。

    宵で顔を洗うように。宵にしようか、黄昏にしようか、朝にしようか、迷いました。結局、宵になりました。

  5. @渡 ひろこ
    …すみません。水に如し ⇒ 水の如し です。

  6. 機嫌も追憶も自ら整えられる人は他の人のそれを促がしたり助けたり出来る人だと思うのです。
    聞き上手は幅広くモテますのでそういう意味では危ういのかもしれません。
    (危険を匂わせて空っぽの人もいますなあ。)
    エッセンスの風味が良くて何度も読んでしまう詩です。

  7. 子供の頃の年月はとても長いです。容姿も頭脳も変わりますから。でも20歳過ぎてからは10年、20年なんてあっという間。多少容姿は変わりますが、老けてゆくだけで基本的には変わらないですし、頭脳も止まっています。だからふとした瞬間に30年、40年の時間は遡ることができちゃいます。なんて、最終連でそんなことを考えていました。5月の良い気候の中を歩いていると、気分も何だか上向きになって、若い頃に歌った恋歌を口ずさんでいた、その自分に気がついて、一瞬、青春時代に戻ったような感じがして「青臭いな」と自嘲気味に思った、というふうに解釈しました。そういう時って私もありますから。

  8. たまには、イカレタ詩人会として燃え上がりたいですね!共に

  9. あおくなる、ですよね。たかぼさんの言われているような青や、藍のようなあおや、ブルーのような、あおや、あおのグラデーションが滲んできます

  10. @たちばなまこと
    たちばなさん、聞くほうは、性分ですね。話すより、聞いているほうが多いかな。モテるかどうかは、わかりません(…たぶん、モテない)。最近、そおぉっと生きたい、という気持ちが強くなってきました。自分の機嫌も含め、こっそり生きます。

  11. @たかぼ
    たかぼさん、生きてきた年月というのは、振り返ると、本当に早いですね。齢を重ねるごとに早くなっていきます。老けてはいきますが、自らの「分」もわかってきて、収まるところに収まる。そんな感じもあります。詩の終盤は、たかぼさんの解釈の通りです。…時々、古い歌を口ずさみます。恋歌。

  12. @那津na2
    那津さん、イカレタ詩人会、いいですね。…酔いどれ詩人会も兼ねて。(^^)

  13. @timoleon
    timoleonさん、あおくなる、のところは、迷いました。結局、ひらがなにしてみました。さまざまな、あお、があると思います。今でも迷っています。

  14. 恋歌 という題がミソですね。
    この詩、長谷川さんのお人柄をあらわしていると思うのですが、この詩全体が好きな詩です。
    最終連で、詩の飛躍をする詩人を見受けますが、この詩もそうで、詩のエネルギーが最終連で飛躍していますね。
    それぞれの章の最後の決めゼリフも好きです。
    写真は、微妙な空の色の下、青葉が目に鮮やかです。その道を歩いているのですね。

  15. @こしごえ
    こしごえさん、この詩を書き始めた当初は、どう着地?するのか、自分でもわかりませんでした。…まさか恋歌になるとは。書き終えて、自分でもびっくりしています。着地を想定して書く場合もありますが、この詩は、想定していませんでした。丁寧に読んでくださり、嬉しいです。

  16. 素敵です。年を重ねることで、こういった感情に至っていくのですよね。
    すごく心に沁みて。優しい気持ちやときどき自分を愛することなど、やわらかい気持ちいただきました。

  17. @ザイチ
    ザイチさん、ありがとうございます。そこそこ齢をとって、落ち着いた感はあります。でも、…時々、あおくなる。感情は絶えず揺れ動いているのかな、と思います。今も揺れていますね。

  18. 素朴な言葉が続きながらも、突如、容易なはずなのに深淵を見せて理解を拒む言葉が立ち現れるのが、私にとっての長谷川さんの詩の魅力です。「自分の追憶は/自分で拭う。」だとか、「時々、あおくなる。」だとか、ハッとさせられます。そしてしみじみとした孤独も(私にはそう感じられます)、心が惹かれます。

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