里の唄

 細い川の傍を 風までが生暖かいのです
 雪の下から土のにおいがしてきます
 早春の夜は
 やはり冷たい方が良いですね
 おまけに星が無いのが寂しくて
 靴音が切ながって
 遥か後ろの方からついて来るのです。

        *

 あぜ道歩けば小川のせせらぎ
 か細い早苗がなびきます
 田の面を渡る風に
 おくれてはならないと一様になびく
 蛙が風に逆らって目をむいています
 まだ陽が落ち切らないので鳴かない
 その目は 山の端に沈みかけている陽を
 監視しているのです。

        *

 小さな寺の鐘の音が
 震うともなくゆれて
 野分の吹き抜ける野の道を
 一人歩いてみるのです
 刈り取られた裸の田園が白っぽくて
 野分は何度もためらう様に
 その上に渦を巻いた
 野の道を
 田舎の隅の小さな家に帰ります。

        *

 幸子ちゃんのお母さんが
 小さな流れに大根を洗っています
 風が大根の白さに惹かれて
 冷たい水にうず巻いている
 西山に雲がかかっています
 間も無く 時雨が駈けぬけるでしょう。

        *

 冬の来る日のたそがれは
 田の中にもみ殻が
 煙かすかになびかせている
 冬の来る日のたそがれに 
 あなたは まだ帰らない。

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 映像、くっきり鮮明に浮かびます。
    見事です。ゝ

  2. @ひだかたけし
    様へ

     お読みくださいまして、とても嬉しい!です。(*^^*)
    コメントを、どうもありがとうございました。
     作品を発表されましたら、また楽しみに拝読させて
    いただきます。今後ともよろしくお願い致します。

  3. 里の季節の移ろいと、風景とともにほんのり立ち上る情感がなんとも言えず素敵ですね。

  4. @あぶくも
     様へ

     お読みくださって、どうもありがとうございました!ご感想のお言葉を
    寄せていただきまして感謝します。(*^^*)
     幼い日の記憶をたどり、想い起こして現在の自分の目で書いてみました。

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