(1829)

(1829)

いつものように鞄の中に突っ込んだまま電車で寝てしまったからだろうか
連絡先を交換したその日の夜に着歴があったことにもあたしはまったく気づいていなかった

0x0-xxxx-4169

じゃあさ、この番号にワンギリしてよ

と言われたあの時の
自分が押した最後の4桁を指が微かに覚えていた

ああ、きっとこれはあの彼の番号だ

発信履歴にも同じ番号が残っていることを確かめてあたしは少し胸をなでおろす

何かと疑り深いあたしはこんな風に連絡先を交換しても
自分の方には登録しないということがままあるのだ

しかしどうしたというのだろう
連絡先を交換したその日に即電話をかけるって最近あんまりないような気がする

LINEで御礼のやり取りくらいが丁度いいのに
彼の間合いの詰め方には少し気後れしそうだ

こういう感じで次から次へと疑いの視線や声を他の誰でもなく自分が自分に浴びせるから
あたしは自身の健康を損なうようなことを何度も何度も懲りずに繰り返していて
これまでも気になる人との恋愛を成就させられないでいたのだ

などと空想みたいにまた頭の中で一人相撲しているところに
それをずっと見ていましたよとでも言うようなタイミングで

ヴヴヴーヴヴ

ヴヴヴーヴヴ

と携帯を持ったままの思案の掌に2回連続する振動が来た

LINEだ

メッセージを送った直後に立て続けに当たり障りのない無意味なスタンプを送ることで
送ったメッセージを他人に見られるリスクを避けるという方法があるとは以前何かで読んだ

この人はこの人で妙な用心深さがありそうなのが気になるな

相手を気遣っているようでいて保身に走っているだけのような
さては不倫でもしていたことがあるのだろうか

2回目に被せるように送られて来たのはスタンプではなく
このゴッホの向日葵(ってこんなんだっけ?)に何だかよくわからない「32」と書かれた画像で
唐突すぎて絵の意味も数字の意味もわからない

そして元のメッセージにはこうあった

これ君にあげるよ
昨日連絡先交換したとき驚いたんだよね
偶然の似たもの同士なのかも知れないね
おれが使ってるのとお揃いになっちゃうんだけど
サポートNo.と開運モチーフだからこれを待受画面にするといいよ
まぁ騙されたと思ってやってみて

直後あたしは言われるがまま送られて来た画像を待受画面に設定した

あたしはもうあの人が言うように騙されているのかも知れない

だけど

今回は何だかうまく行くような気がする

そんな気がするっていうことが人生にはもっとも大切なことのような気がする

ような気がする

投稿者

千葉県

コメント

  1. 1829のB面、投稿しておきます。
    もう少しで自分の携帯番号晒すところでした。

  2. かっこよいー!

  3. 現代版「なんとなく、クリスタル」のようで良いです。でも1829も32も謎。

  4. 1829 って、携帯の番号の一部?
    この詩からは、作者であるあぶくもさんの温度を感じます。 って、この詩の作者はあぶくもさんですよね? んー。^^;

  5. B面なのですね。
    不思議さもあって、今っぽさもあって。
    何かが始まる予感がびしびしと震えています。クールなかっこよさがたまりません。
    32について思いをめぐらせます。

  6. @timoleon
    さん、かっこよいの、これ?
    自分ではまったくわからなくて悩んでしまうなー。

  7. @たかぼ
    さん、嫌だー、って言うのも田中康夫さんに失礼か…。

  8. @こしごえ
    さん、正解。携帯番号の下4桁ですね。
    あぶくもの温度、感じていただけましたか?こちらはAIじゃないですよ(笑)

  9. @たちばなまこと
    さん、ありがとうございます。
    32はサポートナンバーで、向日葵は開運モチーフなのだそうです。

  10. ラスト、ちいさなハッピーエンドで、ほっとしました。そんな気がするっていうことが人生にはもっとも大切なことのような気がする…。これ、とてもよくわかります。そうだよなあ。

  11. @長谷川 忍
    さん、ありがとうございます。
    最後の終わり方について言及くださり、とても嬉しく思います。ずっと良い「ような気がする」と思っていられれば良い「ような気がする」のです。

  12. @timoleon
    @たかぼ
    @こしごえ
    @たちばなまこと
    @長谷川 忍
    コメントくださった皆様に、この詩の野暮な解説をさせていただきます。解説してる時点でスベってますが。

    この詩は『琉球風水志シウマ』さんの携帯番号下4桁(を足した合計数字で占う)占いを巡る物語となっており、「おれ」の携帯番号下4桁(4169)と「あたし」の携帯番号下4桁(1829)がいずれも足すと「20」であるという共通点、かつ「20」がいわゆる凶数であることが根底に流れております。占いに従ってひと足先にその凶数を和らげて運気を上向かせた「おれ」が、出会った「あたし」の携帯番号に気づいてそれを伝えたそばから、「あたし」の運気が上昇してゆく様を描いています。
    皆様も下記サイト(無料、4桁数字入れるだけ)で一度占ってもらってみてはいかが?
    https://shiuma.cocoloni.jp/article/38?zspid=w999999999

  13. 一言コメントですみません。これ心の声もコンセプトもおもしろくて大好きです!
    ちなみに私も上記サイトに占ってもらったところ、開運モチーフが「亀・亀の甲羅」で、
    激しく脱力しました。(てっきり名画がでてくるものと思っていたもので….)

  14. @草野まこと
    さん、そう言ってもらえると嬉しいです、ありがとうございます!
    亀の甲羅でしたか、脱力いいですね。私のも向日葵なだけでゴッホの向日葵にしたのはこの画詩のためのアレンジなのです。心の声シリーズ、結構自分でも気づいたら書いてしまうのでまたそのうち似たようなのが出来上がるかもです。

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