ジャミラが過ぎる
信号待ち、ぼくの車の前
ランドセル揺らし揺らし
男の子三人は帰り道
後ろをふり返り
キャキャキャ、キャキャキャ
何度もふり返り
横断歩道を渡っていく
はてさてきみたち、何がそんなにおかしいのだい
ああ、なるほど、ははは
視界の左から出現したのは
制服の後ろ襟、頭頂部に引っかけたの
両手を上げてゆらゆらさせながら
ジャミラだ
ときにともだちとひどいケンカをすると
決まってこう言って別れた
おまえとなんか絶交だ
ともだちは言い返した
おう、こっちも絶交だ
だけど日曜日をひとつ越えるくらいには
あら、もとどおり
ぼくは四年生、仲直りのきっかけが
そんなジャミラごっこだったことがあったっけ
でもな、子らよ
彼が生きたのは
遠い星に不時着し
置き去りにされ、見捨てられ
みにくい姿になってしまった宇宙飛行士が
復讐にやってきた地球で
ウルトラマンに倒されてしまうという
お話の中なんだ
きみたちだって
ともだちとひどいケンカをすることもあるのだろうな
でもそんなとき
絶交だ、なんて言うな
そんな言葉
覚えてもきっとつかうなよ
これから、な
会わないひとが増えていくんだ
会えないひとも増えていくんだ
今でもぼくは思い出せる
ウルトラ水流を浴びて
どろどろに溶けていった彼の
あまりに悲しい泣き声を
ぼくはゆっくりアクセルを踏む
遠ざかっていく小さなジャミラの
青い半ズボンから伸びたしなやかな足が
にじんで見えることもない
コメント
ジャミラは、「ウルトラマン」の中でも、強烈に憶えている怪獣です。テーマに社会性が滲んでいましたね。ラストの、水に濡れ、苦しんでいる姿は忘れられない。ジャミラの物語は、ひとつの「詩」なのかもしれません。本作品を拝読し、あらためて想いました。
@長谷川 忍さま。
ありがとうございます。夕方の再放送で視た世代です。あのジャミラのフォルムも、お話しも、本当に強烈な印象を子供心に遺させるものでした。作り手が子供を子供扱いしていなかった――あの頃のウルトラマンシリーズを思い返すと、そんなことを思います。