鎌首

幸せという字は辛いという字の上に一本足して、蓋をしている
辛さに蓋をして幸せになるぐらいなら
辛いままの方が正直じゃね?
おれの息子はそう言って戦争に行く
2年間
中央の大学で学位を取得したばかりだが
高度専門技術の有資格者であるため、前線には送られないらしい
情報幾何の予測戦略部門で働くそうだ
息子は戦争に行くと言ったが、
死にはしない、
おれにとってそれは戦争を意味しない
給料の良い就職を意味する
おれは安堵する

核武装は戦争の抑止力にならない
核使用に至る一歩手前まで制御する枠組みは構築可能で
その管理下で対称な戦争さえ遂行できる
これがロシアとウクライナの戦争によって証明された後、
戦争は民主化されて開かれた
他国のいかなる干渉も受けない閉じた戦争は廃され、
目的と領域が明確に設定された範囲内では戦争が「承認」される
まるで昔のサイエンスフィクションのようだが、
すべての戦争の放棄というのもファンタジーだ
限定戦争を常態化することによって世界を破滅させる大戦争を行う余力をなくす
核兵器による相互確証破壊に代わり、
多極化した世界では疲弊戦略が取られるようになった

地元のマイルドヤンキーたちは戦争に行って死ななければ、
地元で武勇伝を語ることができた
後方勤務の息子は地元の同世代たちからは嘲笑されるだろう
おれも他の親からやっかみ半分の嫌味を投げつけられる
お宅の息子は行ってないからね、よう眠れるでしょう、
うちはもう心配心配で、毎朝毎晩、おがんどるんですわ

そうですよね、心配ですよね、では、失礼します

北海道の第7師団から引き抜かれて台湾に派兵された1部隊が北部の山岳地帯で包囲されたというニュースを聞いた
おれは次の町内会に行くのを楽しみに思う
おれは同情の表情を浮かべて言う
息子さん、きっと無事に帰ってこられますよ
おれの息子は今頃、基地内のフィットネス施設で頭脳を冴えさせるために筋トレで汗を流している
疲弊した国の疲弊した地元で
薄暗い悦びがちろちろと舌を出して鎌首をもたげる

投稿者

北海道

コメント

  1. 全面核戦争を避けるための、開かれ民主化され承認された戦争。という仕組み。というビジネスもある。一旦この視点で世の中を眺めると、もう後戻りはできません。陰謀論だなんだと言われながらも。何だかおかしい昨今。いや実はもっとずっと数十年も前からおかしいのかもしれない。そういう、もやもやした気分を、ストンと詩に落とし込んでくれました、ゼッケンさんです。

  2. @たかぼ
    >もやもやした気分を、ストンと詩に落とし込んでくれました、ゼッケンさんです。
    ご紹介に預かりました、ゼッケンです。たかぼさん、ありがとうございます。
    ホントに? ストンと落とし込めてるかな? だとしたら、だめじゃん。詩はもやもやさせないと。
    詩の本態は統合機能であって、分析はスパイス程度にとどめたい。ゼッケンの味音痴。
    読者に潔く分かったと言わせるのが論、分かったと言い切らせない迫力が詩。だと思ってるんだが、詩の書けない男ですよ、わたしは。

  3. @ゼッケン
    さん。そうか詩はもやもやさせないとダメなのか。また一つ勉強になりました。

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