山脈

 冬の山の名残りただよう稜線に
 しのび来る春の気配
 それは舗道であなたが掴みとった
 連れ添い歩く私の右手

 遥かな山河の距離を飛びこえて
 あなたは まじかく微笑んで
 その掌の
 ふくよかで強い感触をもう
 憶えていなかったことに気付く

 もう憶えていないからこそ
 あつくなれる
 何て不思議な楽しさだろう

 湖がはろばろと暮れゆき
 さざ波は いく重にも心を折り畳み
 やがて対岸の消え去る彼方に一隻
 金色の帆を張るヨットが向かう

 比良の山脈は拡がってヨットの帆を呑み込むと
 深く沈み行き
 明日のぼる陽を語ってくれる
 遠い昔のふたりの恋の彫像を山脈は、
 読みとってくれたのか

 私からもあなたへ掌を差し出し笑いかけてみるのだった

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 詩的な表現がとても良いです。しのびくる気配が掴み取った手であるとか、「まじかく」微笑むとか、不思議な楽しさであるとか、「はろばろ」と暮ゆくとか、恋の彫像を山脈が読み取るとか、読んでいて楽しいです。

  2. @たかぼ
      様へ

     お読みくださいまして、ご感想のお言葉をお寄せいただき
    たいへん嬉しく思います!どうもありがとうございます。(o^^o)
     心に浮かんでまいります風景を、素直な気持ちで書き留め
    ました。
     作品を、たかぼ様に楽しんでいただけました事、投稿して
    みて良かったなあ!と実感しています。ありがとうございます。♪

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