イツワリノの民話・その1
カナディアン・ショーはキャナンテ族の若者だ
彼は羊を1頭持っていた
サボテンの赤い花は羊の好物だった
ある日ショーは聖なる岩の陰で休んでいた
眼をあげると狼の王が彼を見ていた
明日羊を俺にくれ
それはだめだ、よそへいってくれ
いいやおまえの羊だ
ショーは狼の王にいやいやながら頷いた
次の日ショーは羊を聖なる岩のそばの
サボテンにつないで去った
羊はすべて知っていたので悲しい声で鳴いた
その夜ショーは食事もとれず藁の上に横になった
夜中に声がした、狼の声だ
ショーよ、おまえにサボテンの花をやろう
狼よ、羊はもういない
誰がサボテンの花を喜ぶだろう
ショーよ、サボテンの花を麻袋に集めろ
おまえに必要なものが手に入る
次の日の朝ショーは聖なる岩のまわりで
多くのサボテンの花を集めた
そして麻袋につめた
次の日の朝ショーは麻袋が動くのを見た
麻袋の口を開くと中から美しい女が出て来た
女はショーの顔をなめた
おまえは羊の生まれ変わりなのか
女は口がきけなかった
ショーは女と一緒に聖なる岩の所へ行った
岩の上に狼の王が立っていた
狼よ、女はなぜしゃべらない
次の満月の夜、ここに来い
女はショーを見てほほえんだ
ショーは女の荒々しい巻き毛をなでた
満月の夜がやって来た
月光の中でサボテンの花が無数に咲いている
女はその花をつんで自分の口に入れ
ショーの口にも入れる
おまえはもうすぐしゃべれるようになる
二人は聖なる岩に着いた
満月は岩の真上にある
その光をあびて女はアイシテルと言った
その声を聞いて
ショーは羊になった。
コメント
どういう落ちになるのかわくわくしながら読みました。やられました。
凝縮されたマジックリアリズムの香りを感じましたよ。アルケミスト。ゼッケンです。坂本さんは半分オートマチズムから説話まで自由だなあ。いや、この作品こそ半分オートマチズムで書かれたものか。すげぇなあ。
@ゼッケン
さんへ、完全なるオートマチズムで書けたなら、いったいどうなるのかと、思うことはありますが、それは逆にとても苦痛です。わたしにとっては「半分」が一番ここちよく書けるようです。この作品でもすべては「半分」です。