砂丘
ただ波の音だけが
繰り返される
低いざわめき
寄り添う時
滴が止まる
予感
繰り返される
ただ波の音だけが
低いざわめき
離される時
ひとしずくの
予感
ただ繰り返される
波の音だけが
語りかける
低いざわめき
【 解説 】
その女と出会ったのは狂った春の始まりの頃だった。僕たちはお互いの部屋を行き来して夜中まで語り合った。語り疲れると女は僕の腕の中で幼児のように眠った。そんな日々が続いたある夜、女は海に連れて行ってくれと僕に頼んだ。どうして? どうしても。それ以上何も聞かないで女を乗せて海岸に向かった。その街は30分も走らせると海に出る。おぼろ月夜に照らされて砂丘の向こうに浮かび上がる海。女は靴を脱ぎ波に浸る。そしてそっと語り出す。「今日ね、電話があったの。実家からよ。私ね、故郷に好きだった人を残して来たの。その人が今日死んじゃったの」その後はもう語らない。僕も「そう」とだけ言って語らない。ただ、波の音だけが聞こえていたんだ。
コメント
「解説」というギミックありきの詩ですね。前半は詩の形式でありながら言葉通り「予感」でしかなく、後半にこそ詩想が見えました。
さすがトノモトさん。素晴らしいコメントありがとうございます!
カッコいいです
雰囲気、空気感、狂った春
那津na2さん、コメントありがとうございます。久しぶりの詩人会。この不完全な旧作に対して「解説」を付けることで完全版にするというアイデアを思いつき投稿してみました。長い間心の中にあったわだかまりを放出できたようで、この機会をあたえてくださった新詩人会に感謝したい気分です。
かっこいいです!
たちばなまことさん、コメントならびに、新詩人会の立ち上げ、ありがとうございました。
春ってのはそういうもんだよな、って思いながら読みました。冬だと「そう」とだけじゃいられないからなあ。
王殺しさんお久しぶりです。コメントありがとうございます。なるほど、やはり春の所為もあったのかな。恋人が死んだ日の夜に海に行きたくなる女って……海に引き寄せられたら自分はそのまま行ってしまうかもしれないと思ったのでしょうか。「僕」に連れて行ってほしかったのはそうなったら止めて欲しかったのかもしれません。
タイトル、ミケランジェロ・アントニオーニの「砂丘」を若い時に深夜見たのを思い出しました、夜の波打ち際から彼岸を眺めるざわつく予感がしました。
timoleonさんコメントありがとうございました。ミケランジェロ・アントニオーニの「砂丘」も見てみたいと思います。
本編は詩情そのものですが、私にとっては短編小説のような「解説」のほうがリアルに迫ってくるインパクトがあったり、でした。
babel-kさんコメントありがとうございました。babel-kさんのご指摘通りです。実はこの詩は本編は随分昔に完成していたのですが、どうにも納得がいかず、ずっともやもやしていたのでした。それで今回詩人会が再開したときに、解説を付け加えるというアイデアが浮かんだので一気に書いてみたら、「解説も含めて詩である」という面白い物になったので投稿したと、そういう訳なんです。