手を振る
川のこっち側に人が一人いる
川のあっち側にも人が一人いる
大声出すのも何だから手を振る
舟に乗り込んだ男が一人いる
見送りの友人たちが港にいる
その中に大好きな恋人が一人いる
投げキッスも何だから手を振る
座禅をして問答が始まる
片手で試した拍手の音は?
風の音 沈黙の音
ナンセンスを楽しめる音
自分だけに贈る音
世界に響かせる音
愛の音 皮肉の音
胸を宇宙にする音
やはりくだらない音
名前ができあがる音
誰がわかる音 誰かに贈る音
宇宙人 神様 連絡取れない恋人
在りし日の親友
スカみたいな音
人は大勢いて群衆
人は一人いてひとり
振らないのも何だから手を振る
コメント
隻手の声が聞こえてきそうですね。
@銀薔薇
さん、コメントありがとうございます。
まさにそれ、白隠さんですね。
コラムの
泡沫夢幻て言葉が心中にあって
私の中の夢幻泡影と一つになれました。
ありがとうございました。
また
ご指導よろしくお願いたします。
@銀薔薇
さん、ポエコラまで読んで頂いたなんて感激です。ありがとうございます。
ああ、あぶくもさんの独特な詩の調べと言える詩行の空気感をこの詩を拝読して感じます。それは心地好い調べです。
それぞれの詩の言葉に感じるものがあります。その中で印象深いのが 沈黙の音 という詩の言葉。それを言い切るあぶくもさんの詩の力に敬服します。
最終行で、思わず笑ってしまいました。ユーモアが効いています。大仰にはしたくない。…でも、相手には意思を伝えないと。それで手を振る。私も、さり気なく、あぶくもさんに手を振ります。
@こしごえ
さん、コメントありがとうございます。
この詩は、若かりし頃の、禅の公案を自分の感覚で詩にねじ込むという所業(というより禅や公案って詩だなぁと)で成立していますが、今読んでもおよそ私という人間はあまり変化していないのかもと思います。
「沈黙の音」は、そうですね、それを聴ける耳と心を持っていたいですね。
@長谷川 忍
さん、コメントありがとうございます。
詩を読んで笑ってもらえるというのは私にとってはかなりの褒め言葉でお酒が進んでしまいそうです。概ねコメント頂いた内容どおりの感覚を今も昔も変わらず人や物事に対して持っています。先日の長谷川さんの『不在感』でのコメント「ここにいるけれども、…いない。」という感覚は、まさに自分が幼少から長い年月感じていることでしたのでドキッとしました。長谷川さんにさりげなくも手を振ってもらえるなんて!気づいたら思わず駆けて行ってしまいそうです!