匿名
木立よりアカショウビンが
燃え上がる嘴で愛を告げる
深く澄んだ空気に
何にかまうことなく
飛沫を恐れることもなく
愛を告げる
この世界は人間なしに始まった
濁らぬ流れがやさしい歌歌って
千年の樹を慰撫する
数えきれぬ赤い芽の瑞々しさが
長い長い午後を彩る
閉じられる時まで
匿名の僕らは
たとえどんなに離れていても
時間や距離などなかったかのように
ここでは肉体など関係ない
なかったかのように
言葉をかわす
タチツボスミレやキジムシロに囲まれて
彼女は眠ってる
忘れられぬ香り
消え去らぬ地熱
森から立ち上る水蒸気
この世界は人間なしに始まった
霞になった水蒸気
向こうの山々を滲ませて
滲ませ続けて
密集する意味もない顔たちが
また誰かを呪うかのように
笑い騒ぎ叫喚し
他人事のように通り過ぎる
意味のない顔たちが
意味もなく通り過ぎる
意味もなく呪いを蔓延させ
せせらぎをわずか堰き止めた
杉の切っ先赤い実の束
それは去りゆく者たちの残滓
見捨てられた木々の恍惚
肉体なくとも離れることはない
肉体なくとも愛をかわそう
この世界は人間なしでよいのだから
コメント
コロナ禍の我々を批判するかのようで、どこか優しい。
作者の名前が、良いです
すてきです。
お久しぶりです。このコロナ下に抱き合って再会を喜ぶのもあれなので、詩を書きました。
人間が名付ける前から、原始、植物の名があったかのように錯覚しました。
電波に乗せて全力で再会のハグを。
コロナ禍を風刺したのだろうと思いました。随所随所の体言止め。効果的な表現だと思います。力強さが現れています。生命のみなぎりを感じる想いがあって、いいと思いました。
お久しぶりです。また読めて嬉しいです。
初めまして。「愛を告げる」「この世界は人間なしに始まった」というところに魅力を特に感じます。