夏を喰らう亡霊
夏が来るたび虚しくなるのは
何度も夏を看取ってきたからだ
朝凪は言葉、夕凪は亡骸
風は残滓として空に溶けていく
空が赤色に染まれば染まるほど
海が赤色に染まっていくように
蝉時雨は夏を汚した
忌々しい夏を汚した
さながらそれは子供の落書き
もしくは旅立ちを嘆く歌
変わらないままでいられるのは
変わりたくないと願う心だけ
夏が来るたび虚しくなるのは
何度も夏を看取ってきたからだ
うだるような熱もどこかへ消え去った
何も残さず、どこかへ消え去った
僕らはいつか土に還るのだ
誰もが等しく土に還るのだ
それを知っておくのが怖いから
知ったまま生きるのが怖いから
夏の風を小瓶に閉じ込めた
百年先を生きる誰かに
僕らの唯一の証として
それはきっと、夏を喰らう亡霊
夏が来るたび虚しくなるのは
終わりがあることを知っているからだ
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