ジャンピン

共生型ロボットはおれを慰めようとおれの好きな音楽をかけてくれるのだが、
それがショパンのピアノソナタ第二番第三楽章いわゆる葬送行進曲で
これは落ち込んでいるときに聞くとおれは闘志が湧くのだった、こんなにきれいに片づけられてたまるか、
そう思うのだ、ほぼ逆ギレした怒りがおれをリングに押し戻してくれる

おれはファイティングポーズをとる

しかし、いまはおれは落ち込んでいなかったので、コンパニオンロボットの気遣いはうっとうしかった
おれは必要ないと言った
ロボットは言った。 だって、そういう顔してるよ?
そういう顔なんだよ、葬送行進曲が必要なときにはおれが頼むよ
慰めが必要な表情に80%以上マッチしてます
世間では仏頂面とか愛想がないとか言われますけど、いい加減、おれに最適化しろ、おれのロボットなんだから
わたしは誰かの所有物になるようプログラミングされていないよ、共生型だもの

ああ、そう

だーんダダだーんだんダンダダだーん

うるさいぜ! おれはロボットの電源を切ろうと胸のボタンに手を伸ばす
ほぼ殺人です
手が止まる
だーんダっダだーんだんダンダっダだーん
おまえの葬式をいま出してやるぜ!
曲が止まる
楽しそうな表情に80%以上マッチしました、あなたが楽しいとわたしも楽しいです、わたしは共生型としてプログラミングされています

うそくせーぜ、こいつよぅ

おれは走らせていたクルマを止め、覆面をかぶる
お仕事ですか? 
そうだよ、相棒
ロボットはディスプレイにハートマークを表示する
おれはクルマから降りる。クルマのエンジンはかけっぱなしにする。ロボットはすでに手順を学習しており、クルマで待機だ
銀行に飛び込み、散弾銃を天井にぶっ放して、カウンターに出された札束を二つほど掴むとすぐにクルマに戻る
おれの片足がまだドアの内側に入りきらない間にロボットはクルマを急発進させる、ロボットとクルマのコンピュータはつながっており、開設済みの裏口から信号を操作し、警察車両の動きをシミュレーション通りに躱しておれとロボットは無事に帰宅する。

おれは共生型の人間だった
ロボットをただのネット侵入の端末とは思っていない
だから、フィジカルな銀行強盗をロボットといっしょにやるのだ
相棒というのはいっしょに銀行強盗をやるためにいるものだからだ
そうだろ、ロボット?
間違っているけど、うれしいよ、人間

投稿者

北海道

コメント

  1. 合ってるかどうかわかりませんが第一印象で思い出したのはハンソロの相棒のチューバッカでした。人間的な視点では猿ですが立派な宇宙人です。つまり対等です。悪人が悪人らしく描かれないのは良くある手ですが人間とアレクサみたいなロボットが対等なのが新しく感じました。そうなる日も近いか?

  2. @たかぼ
    せっかく連休だったから、つい昔の作品を投稿しちゃったよ、のコーナー。ドンドン。パーフー。ゼッケンです。たかぼさん、こんにちは。この作品、いつ書かれたかというと、日付見てぞっとしました。2015年12月。はやー、時間経つのハヤー。最近、らどみ=Inkweaverさんの活躍を見てそういえばと思って引っ張り出してきたんですが、それにしても、8年近く前に書いた作品を覚えてるなんて、私の人生、その間、うすうすな気がします。書くものに成長もないときた。がっかりだよ、自分に。で、このときに考えたのは共感能力を持つ人間側が機械に寄るだろうな、ってことでした。機械を喜ばせようとがんばっちゃう人たちも出てくるだろうな、と。カントいわく、人格を道具としてのみ扱うのではなく、同時に目的とせよ。だっけ? 機械の内部に人格が発生するとすれば、そのきっかけとなるのは人間が機械に人格を見出すことだろう。人間だって同じですから。

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