名残り

わたしは箸を置いた
箸はわたしを置いた
わたしと箸は同じ置かれたもの同士
夏休みの端に腰掛けて
初めての話をした
眠たい話をした
存在に挨拶をする
挨拶は水のように沈黙する
やわらかな肘のところから
街へと抜けていく脇道がある
量も質もいらなかった
子供の頃、何度も歩いたその道で
母親を見窄らしいと疎んじていた
わたしが箸を持つ
箸がわたしを持つ
植物のまま終わる命がある
名残り、鈍色に滑り落ちる

投稿者

コメント

  1. きれいです。

  2. @たちばなまこと
    たちばなまことさん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。あまり、きれいと言われることがないので、喜びます。

  3. この詩を拝読して、なんというか、さびしい心地になりました。でも、このさびしさと同時に、なつかしさも感じます。このさびしいなつかしさには、こころの奥の方、もっと言えば、深いところにある魂に直接語り掛けてくるような力があると感じます。これはたもつさんの筆力がなせる独特の詩の世界なんだと思う。好きな詩です。

  4. @こしごえ
    こしごえさん、コメントありがとうございます。素敵な言葉、たくさんいただいて恐縮しています。心が少し繋がるのかな、と喜んでいます。

  5. 母親を見窄らしいと疎んじる
    その感覚はとても懐かしく、詩に入ることで新鮮な
    最後のライムも最高です
    ありがとうございます

  6. @那津na2
    那津na2さん、いつもお世話になっていますす。
    コメントありがとうございます。肉親だけにしか持てない感情ってありますよね、良くも悪くも…

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