雲影
あの日
火葬の煙が 一筋昇り雲となって
天気雨が降った
火葬場の玄関の石段でわたしは
きらきらとする雨を浴びた
わたしも
死んだら火葬されるだろう
そうして 雲となり
あおぞらを行くのだ
すると
だれかが わたしを
見上げることになるかもしれない
その日の雲のすきまからお日さまが照る
その雲の上のあおぞらを 光がうすめて水色透けて
雲はおもい出の形にゆったりと変わる
あなたは
さまざまなわたしと出あい 別れる
いのちだ
わたしは
さまざまなあなたと出あい 別れる
いのちのために
あなたとわたしは
どこか
五月雨や 急雨や秋雨や冬の雨や春雨や慈雨や零雨
さまざまに涙する
魂
雨音いっぱいにつつまれたほの暗さに解けて独りではないと独り言を言う
ずっとむかしからつづいてきた このいたみをそっとかみしめる
雨の上がった あおぞらの下には 一輪の白い花 咲いています
コメント
命と向き合う作者の真摯な気持ちが伝わってきます。最終連の、一輪の白い花。花の名をふと想像してみました。
さまざまに涙する
魂
刹那に達観し、刹那に癒される
そしてぼんやりとまた何かを背負う
そんな感覚に陥りました
死んだら煙になって、誰彼かまわずからまりあって、しばらくしたら霧散して、もうそうすりゃそこかしこ、
そんなふうに昇る煙をみながら思ったことがあったなぁと、思い出しました。そうだった。
長谷川さんへ 命と向き合う作者(私)の気持ちと向き合い、その気持ちを汲んでくださいまして、ありがたいです。更に、その一輪の白い花の名をふと想像してくれまして、うれしいです。ありがとうございます。
那津na2さんへ はい。そのように感じたり思ったりしてくれたことを貴重に思います。ありがとうございます。
王殺しさんへ 王殺しさんが、この詩からそのように大切な思いを思い出されたことを私に伝えてくれまして、ありがたくおもいます。ありがとうございます。
死んだ肉体は煙になって、魂は雨になって、別れが教えてくれるのは、自分のいのちがここに置かれていること、それからのこと。
timoleonさんへ すてきに読んでくださいまして、ありがとうございます。そうですね、それからですね
私は煙草を吸わないのですが、ある人が火葬された日に煙草をくゆらせながらその奥で昇っていく煙を見ていた人たちのことを思い出しました。
「ずっとむかしからつづいてきた このいたみをそっとかみしめる」
ここ、とても共感しました。
たちばなまことさんへ うむ、ある物事とつながっている記憶というものがありますね。ふと、思い出す。
そこに、とても共感していただきまして、ありがたいです。共感していただけるということは貴重なことです。ありがとうございます。
霧散した魂が白い花として戻って、再会できたような。ずっと続いていく大きな営みの中でのささやかな自我に思いを馳せました。
あまねさんへ おおっ!魂が白い花に宿るというようなことはほぼ私の意図した通りのことなので、そのように読んでくださいましてとてもありがたいです。しかし、それだけに終わらずに、ずっと続いていく大きな営みとそこにあるささやかな自我までをも思ってくださいまして、貴重に思います。そのように読んでくれまして、ありがとうございます。
もちろん、その詩をどんなふうに読んで頂けるかは、その方(かた)の自由だと思います。その詩からさまざまに感じたり思ったりして頂ければ幸いです。拝礼
1連の大切な風景は目に浮かび、終連の深みは伝わり、「巡るいのち」を語る詩だと思います。
剛さんへ 1連のできごとは、私の家族の葬式の火葬の際に実際にあったできごとをもとに書きました。火葬の煙がその時の天気雨を降らせた雲になったかは不明ですが、雲を作る水滴は芯になる粒子があればできるそうです。そして、家族が火葬されている間、火葬場の玄関の石段にいた私に天気雨が降ってきたのは本当のことです。
1連から終連まで、思い描いたりしながら深く読んでくださいまして、「巡るいのち」を感じたり思ったりしてくれて、ありがたく思います。ありがとうございます。