ぼくのおじいちゃん

おじいちゃん
ねえ　おじいちゃん
おじいちゃんは覚えていますか
ぼくがおじいちゃんを交番で待っていたこと
おじいちゃんが迷子ですって
おまわりさんにしっかり伝えたこと
ぼくはおまわりさんと遊んでいたから
ちっともつまらなくはなかったけど
やっと見つかったおじいちゃんは
二度とぼくとは遊ばないって
怒っていたね
ぎゅっとつながないからよ
お手々をはなしちゃだめなのよ
ぼくがそういったら
おじいちゃん
許してくれるかな
ねえ　おじいちゃん
ぼくは思い出すよ

おじいちゃん
ねえ　おじいちゃん
おじいちゃんは知っていますか
ぼくが御本を読んであげたこと
おじいちゃん知らないのって
お膝で教えてあげたこと
装丁が解けたウルトラ図鑑と褪せた恐竜大百科
何度も何度もめくったんだよね
ねえ　そうなんだよね
おじいちゃん

そうやって記憶にない記録を綴ることに
なんの意味があるのだろう
おじいちゃんを知っている人がいて
おじいちゃんを覚えている人がいて
こうだった、ああだったって、
好き勝手にぼくに言う
だけどね　おじいちゃん
こうやってあなたのことを書き出しながら
あなたのことは何一つ覚えていないくせに
どうしようもなくあふれてくる

無にも力が宿ると言った人がいました
でもこれは、無ではない
おじいちゃんを想うだけで
なぜこうも息が苦しいのか
やさしい気持ちになってしまうのか
輪郭がくっきりと浮かんでしまうのか
このあたたかさは　きえないのか
どうしてだろう　おじいちゃん
今なら言える
ここにあるからだって
ぼくのおじいちゃんがいるからだって

おじいちゃん
ねえ　おじいちゃん
ぼくがそっちに行ったら伝えたいことがあります
｢死んじゃうなんて、ばかだねえ｣って
いままでのさびしさを
ぜんぶあなたにぶつけます
だから
ねえ　おじいちゃん
まっててくださいね
大好きなおじいちゃん