花道
平成二十七年三月エディオンアリーナ大阪
椅子席S 八千八百円のシートに午前十時前から座っていた
切落とし牛肉と玉子焼き、コールスローサラダで作った
焼き肉弁当を黙々と食べながら
右横席の並びから流れてきた酒のつまみの小袋も
心良くご馳走になる
「姉さん、名古屋場所のチケット用意するから一緒にどうや?」
「あかんて!な、姉ちゃん。ホラホラ、旦那お出ましやぁ。」
隣席に現れた会社の上司が二人のオッチャンへ
丁寧に挨拶を交わすと
「面白いの?それ。」
不思議そうに笑い掛けて
私の手にする『大相撲力士名鑑』へ目を落とした
彼の分のお弁当を差し出して
たわいない話をしながら
さっきね、売店から戻って来る時に花道で
幕下力士三人見たんですよ。凄かったですよ!気合いが。
関取と呼ばれる十両へ上がるための関門
番付の幕下上位を目指し、
ピンッピン 張りつめる肌に滲む熱気がまるで
無数に飛んでくる縫針の様で
大部屋から出て給金をもらえる力士出世
最初の夢の位置へ挑む、
眼の色は北の砂丘
凍てつく風紋
吹雪く 氷の塵のような鋭さ
そこは十三日目の けもの道
十両の土俵入りには まだ早い時刻
ひたすらに闘志燃やす者たちのぶつかり合いが
照らすライトもうす暗い土俵上で響く
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