空気自転車

話をすればそれらは
すべて白紙になる、例えば
真冬の薄暗い水面を航行してきた
一艘の空気自転車が
小さな港に着岸する
凍てつく畑を耕す幼いままの父や
瓶の底に落ちていく身体
擦り切れた衣服の裾

海が見えないくらいに
遠い体育館の午後の部で
間違えた川の名を
わたしは話し続けた
吐く、吐く息の白さを
不思議そうに見ていた弟が
新しい言葉を覚えて
辿々しく暗唱する
まだ形になっていない唇、舌、喉
その命の続きを

差し込む光が古びていく
白紙がまた産まれ
白紙は次の白紙へと
引き継がれていく
いつかは大人になる
そんな当たり前のことを
わたしたちは誰かに
許してほしかった

投稿者

コメント

  1. 最終連が好きです。
    この詩の作者の優しさがにじみ出ているこの詩が好きです。
    題もすてき、とても。

  2. @こしごえ
    こしごえさん、コメントありがとうございます。空気を漕ぐような、そんな毎日です。

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