極光

あらいぐまは
ひとりぼっちで北をめざしていました

背中のリュックサックには
リンゴがふたつと
はんぶん食べかけのバナナ
角砂糖が三個

角砂糖は四個ありましたが
波打ち際で洗ったら
あっというまに
溶けてなくなってしまいました

これは洗わないで食べることにしよう
あらいぐまはかたく心にちかいました

あらいぐまは
それほど頭が良くないので
自分がどこに向かっているのか
よくわかっていません

いちめんの星空の下
どこまでも続くまっしろな世界

氷の上を歩き続けてきた足のうらは
すっかり傷だらけで赤くはれあがり
もう痛みを感じることさえありません

角砂糖を舌の上でゆっくりと溶かしながら
どうして自分は
ひとりぼっちで北をめざしているんだろう
ぼんやりと考えてみましたが
こたえは思い浮かびませんでした

いちめんの星空に
見たこともないような美しい光が踊り
あらいぐまは
どこまで行っても
ずっとひとりぼっちでした

さびしいな

そうつぶやいてみたものの
その気持ちがなんなのか
あらいぐまには
よくわかりませんでした

投稿者

大阪府

コメント

  1. 悲しい読後感です。でも、あらいぐまは、オーロラ?を見たかった?
    でもここ、見たのですね。
    見たこともないような美しい光が踊り
    悲しいんだけど、どこか悲しさの中の安らぎみたいなものを感じます。それは私が俯瞰している読者だからかも。ん。

  2. 言語化できないが何かが深く胸を打つ。美しくて悲しい。悲しくて美しい。

  3. @こしごえ さん
    オーロラ、見たかったんですかね。どうなんだろう。
    見たけど、余計にさびしくなっただけかもしれないですね。

  4. @佐藤宏 さん
    人生についてぼんやり考えていたら、
    あらいぐまがひとりぼっちで北をめざして歩いている光景が思い浮かんだので、
    わりと素直にそのまま詩になりました。

  5. さすが アライグマです。つい 洗ってしまうのですね。けれど、洗うのは よりにもよって 砂糖!
    私も、よりにもよって 角砂糖を 洗ってしまうようなことばかり してしまっている気が して、はっとしました。

    でも 人生は自己責任だし、とりあえず、私も 歩きたいと 思えました。ありがとうございます。

  6. @るるりら さん
    ぼくも「角砂糖を洗ってはいけないのだ」と学んだのに、
    結局また同じようなことを繰り返しています。
    まあ、それが人生なのかもしれませんね。

  7. こんにちは。死んだ父を思い出しました。死ぬ前に認知症になってしまって、故郷の福島にこれから帰る、とずっと言い続けていて。寝たきりになっていたから行けるわけもないのに。朦朧としていて、この詩でいうところの、あたまがわるい状態というか。
    あるいは、何も知らない子供のようでもあり。洗ったら駄目、と角砂糖を握りしめる姿は本当にいじらしい。
    こういうの駄目だ、涙が出てくる。ありがとうございました。

  8. @たけだたもつ さん
    数年前に他界した義父も、晩年は認知症に加え頸椎のトラブルで寝たきりでした。登山に命を懸けていたような人なので、混濁した意識の中ではどこか遠い頂をめざしていたのかもしれません。
    ぼくが詩で描きたいと常々思っているもののひとつが「終わりの風景」で、この詩もある種ひとつの「終わりの風景」なんだと思います。

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