それが秋であると言う

そのような方解石は
ソリダコを待っている
孔子の言葉のように墓場に持って行く
清水の湧く冷たい谷間のついには奥まったところ
まるで魂を沈めるために
用意された秘密のしめりけ
旅人のひとりはここに迷いこむのだろうが
そんな話を聞くこともなく、化けて出る
こんこんと湧き出るものは、魂である
スカーレットが恋人の心臓にピストルの弾を撃ち込んだ時
かなりのスピードで天国の扉が、開く?、閉じる?
彼女自身がそんなことをしてしまった自分が信じられないのである
だから特別捜査班は階段の踊り場で
ウエストサイドストーリーを踊る
音楽つきで
ミルウォーキーの劇場ではつぎの舞台の練習が明日から始まる
最近のはやりは〈快感もの〉である
まずは肉感的女優が必要である
アヒルのような尻の振り具合を希望する
声もアヒルでいいだろう
なにしろアヒルはその羽をぜんぶ抜かれたあかつきには
悲しいほどに〈うまそう〉なのである
新式の舞台装置の方はどうなっているのかね
噴水ですね、大滝ですね、核爆発ですね!
そうだ観客はみずからの死を望んでいるのだ!
ひとりのこらず〈天国〉へおくってやるぞ
しかし劇場のホールの床は汚れているし
販売用のケースの硝子はどうにも古びているのだ
最新式でなければならない!
ロボットの係員が必要である
このあたりのごろつきどもが入って来ないように
腕っぷしの強い頑丈なロボットが必要である
この町の大きな公園にたむろする
金も持たずにかっぱらいをする
煙草の煙だけで一日をすごす
なんともだらけた
すじちがいの
くさったやつらが
噴水のあたりで見上げた
秋である。

投稿者

岡山県

コメント

  1. 最期の8行が好きです。不思議な情緒を感じます(私とは全然タイプの違う人間ですが、何となく心が惹かれるものがあって、ちょっと仲間になってみたい、とふと思ったりします)。こんな連中でも秋を知る、というところにある種の詩情が感じられるように思われます。

  2. @佐藤宏
    さんへ、感想ありがとうです。そのように感じてもらえたならうれしいです。わたしは西脇順三郎が好きです。彼の詩論も面白いと思っています。「半分オートマチズム」を詩作方法としています。そんな感じです。そんな九月です。

  3. 西脇順三郎は私も好きです。いままでは彼のデビュー作のギリシア的叙情詩と旅人かへらずばかり読んでいましたが、これからはその他の難解な?長詩も挑戦しようかと思っています。西脇は意識の流れの手法を用いたと聞きますが、坂本さんもそれに近い手法を使われているのかな?

  4. @佐藤宏

    さんへ、意識の流れと言うよりも、「意識を流せ!」と言う感じでしょうね。「ただしチェックは入れますよ!」と言う感じですね。どこまでも美意識を持って創作するべきであると言う立場です。

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