日食
見覚えのない黒い髪飾り
転がって
身に覚えのない記憶を呼んで
荒れ果てた裸の道
成れの果てのボロ靴
何度ここを辿れば
覚えていられるだろうか
君を
影のような君
黒いドレスがはためいて
渡り鳥は西へ
6月の蒸す日
太陽は蝕まれて
僕の網膜の
同じところに
染みを作っている
君の正面を刻み込んでおけない
いつも追いかけるのは
後ろ姿で
スローモーションのように
だらしなく追う
顔のない君
目の色さえも忘れた
歳月が
形あるものの姿を変えさせ
形無いものは消し去ろうとしている
僕はただの老人で
膝をかかえて嘆くだけ
あの時に生まれた僕は
いづれ殺されねばならない
ボロ靴はまた今年も
ハイウェイに降り立った
足のある自分に
絡まるヤブジラミ
その淡く白い花に目をやれば
激しい陽射しはやがて陰り
まるで無音
いつまでも罪に囚われ
手を合わせることを繰り返すけど
もはや意味などないんだ
コメント
あまりに核心に触れないので何のことを書いているのか最初わからなかったけど、何度も読んでるうちに「ああ、悲しいことがあったんだな」と納得した。日食って、何年かごとに話題になるけど一度もちゃんと見たことないや。当然あるべき太陽が蝕まれていく感覚をまだ体験してないけど、いつかそういう日が来た時に王くんのこと思い出すだろうな、きっと。
ご無沙汰しています。
男の人が髪飾りというワードをだすだけで、なんだかすごく淋しくなるのはなぜでしょう。いやらしさはなく、ただ淡々と別離を想像させます。
昇華させることは不可能かもしれないけれど、それと向き合っていくという決意を感じました。
まるで無音/いつまでも罪に囚われ/手を合わせることを繰り返すけど/もはや意味などないんだ
あえていえば、私個人の感想ですが。ここに来て、意味の無いことに救われるような気持になります。なんというか、ありがとうございます。
重い硬質な文章で、荒涼とした風景が広がっていました。日食「イクリプス」は昔から太陽が消えることもそうですが、実体が消えることや、喪失感も同じようなことで主題と、文体が、共感しました。