シロバナムシヨケギクは電子蚊取りの夢を見るか

 
店が賑わいを見せる頃、見馴れない一人のアニキが入ってきた。
ハーレムから引っ越してきてまだ日が浅いらしい。
アニキはつっけんどんな態度でこう切り出した。

謎の男 アニキ 
 おひさです。先日ついに「せかちゅー」を買いました。せかちゅーと言っても四元康祐の「世界中年会議」ですけどね。それにしても蚊はヤですね蚊は。あの動物だけはどうして必要なのかわかりません。どうしてですか? 未来のジュラシックパークのためですか? パリには蚊がいないのでとてもよかったです。動物には案外不自然な環境なのかな。

なかなか話し上手なアニキだ。
自分のことだと勘違いしたのかヒロシ子が言い訳をし始めた。

こそ泥 ヒロシ子 
 おっとお久しぶりです。そう言えば蚊について書かれたファンシー系の動物本は見かけませんね。ハエについても同様ですが、ゴキブリはあるようです。ゴキは葉っぱしか食べないオーストラリア産のものでしたらペットにもなっていますね。ベジタリアンのそれも見た目はゴキそのものですが。蚊はまあ、迷惑な存在ですけれど、夏の風物詩である蚊取り線香はあれがいて初めて成立しえるので消えたら寂しいなあと思わないでもありません。語られる場合はほぼ温暖化問題や感染症等と併せてのようですけれど、ムツゴロウさんのエッセイでは北海道でやぶ蚊の大群に襲われて蚊取り線香を炊いたら屍骸が帽子二杯分になったとか、企業に依頼されて蚊が涙を流すシーンを作ることになって世紀の小手術だとか、蚊でもなかなか面白いネタはあります。私に関して言えば、夏の夜にペットの籠を掃除しているとふと腕を見た時に蚊が何匹も止まっていることがあって、それを一気に手で潰したり、殺虫剤を軽くかけた蚊を紙の上に置いてぷるぷる震えながら徐々に死んでいく姿を眺めたりしているのが楽しいのですが、こういう楽しみ方はいけませんね。パリに蚊がいないのは血が不味いからではないでしょうか。日本でも比較的きれいな水でなければ繁殖できないシマカの類はかなり数を減らしているそうです。よわっちいもんですよ。ええ。

そこに、どくとるTの登場である。
全員が愛想笑いを始めた。

無職 どくとるT 
 寝てるときのヤツが最も許し難いのです。ベッドの裏に隠れていてこちらが寝てから出て来るんですから可愛げがない。しかしヤツの欠点はあの音です。飛び起きますからね私は。あの音さえなければ殺されずにすんだものを。まあ蚊の存在を許さない私は人間至上主義で、ガイアなどからおまえこそなんなんだと言われそうですが。

ヒロシ子はまだ何か物足りない様子だ。

こそ泥 ヒロシ子 
 許す許さないはつまるところパースペクティブの問題でしょうしね。人間原理に相当するものはどの種にも発生するでしょうから。蚊はA音が苦手なので、携帯の待ち受け音なんかをマイクで拾って流しておくのもいいかもしれません。人間が眠れなくなりそうですけどw。それから試みにA音だけの蚊対策トラックを作ってみましたが、完成させるに値しないレベルなので断念しました。ガイアと言えば、精神分析的な見方をすれば人間はガイアとやらにとって欲望を充足させるための存在であるような気がしています。アミノ酸は宇宙からもたらされたという説が有力ですが、これをナショナルジオグラフィックのカメラマンとして、公転と自転の軌道に捉われた母なる星はマディソン郡の橋の主婦フランチェスカのような存在で、今の状態で不満があるわけでも無いけれどそこにロマンスが飛び込んできたらそこに身を任せてみたい、という感じで。環境がどうこうというのはまあ人間種の保全が全てなのでしょうが、このように考えれば工業的な発展とニュー・エイジ的な思想のどちらも必要があって発生し進化していくものであるように思えます。目指すところは宇宙でしょうね。火星や土星はそんな地球に眉をひそめていると思いますが。

どくとるTは自分の発言に満足していないらしい。

無職 どくとるT 
 地球にとって人間は自分の欲望を満足させるため、だけに存在しているという説がおもしろいです。地球は人間の目を通してはじめて自分の美しい姿を見たわけです。地球も火星も土星もつまるところ全ての星は拡散してゆく宇宙の中の不均一な歪みでしかないとも言えるわけで、地球上の代表的な歪みである生物のそのまた代表的な歪みである人間は宇宙の中の歪みである星の動きに何か関係あるということなのでしょうか。占星術とは?

ヒロシ子は今の話がよほど面白かったらしい。

こそ泥 ヒロシ子 
 だけ、とも言い切れないような気はしますね。マザー・アースという呼び方がありますが、お互いが母子のような関係であるとすればどちらもどちらにとっても必要な存在であるでしょうから。人間の目を通して地球は自己の美しい姿を見たってのは素敵ですね。現代のアストロロジーでは星の動きが人間に影響を与える、というよりも星と個々の人間それぞれに対して働く何らかの力があり、軌道の計算によってその位置が予測しやすい星を象意として使う、という考えが主流となっています。どくとる氏の言っていることは後者に近いですね。星が示すのは因果の「因」の部分ですが、おおもととなる第一原理的なものについてはそれが何なのかは現在のところ分かりませんし、研究も自然科学的な、例えば数式による証明などが成功する目処は立っていません。まあ、立ったらそれこそ精神史における一大変革がもたらされることになります。「果」の部分にまつわる統計学的な研究も多くなされていますが、こちらはいくらやったとしても文献の量が増える以上の意味はありませんね。勿論社会的な制度や形式内で生活する我々自身にまつわる「占い」ということになれば参照する文献の数は多ければ多いほどいいわけですけれど。ちなみに、前述中の前者は古典的なアストロロジーの考え方ですが、内容の変遷はあれど現在でもこの考え方を取っているアストロロジャーは数多くいます。「明証されていない力」というのはユング以降の共時性の概念が強く影響しているようです。

店がますますの賑わいを見せる頃、アニキはすっかり酔いがまわったようだ。
ハーレムから引っ越してきてまだ日が浅いらしい。
斯くして見慣れない一人のアニキはつっけんどんな態度で店を出て行った。
 

投稿者

愛知県

コメント

  1. 外来種だ絶滅危惧種だなんてのを聞くと、そりゃまったく人間至上主義者な発想だなぁと思うんだよな。
    この生物は絶滅しちゃいけない、なんてカオスから生まれたガイアの夜明け以来誰が言い出したのだろうか。ママもびっくりだよ。

    ところでモスキート音は若人だけに効くという話だったけど、やっぱり夜中に一瞬でも聞こえるとほんと破壊衝動キますね。なぜ何歳になってもモスキート音にやられるんだろう。
    僕は自分が駆除されるかもしれなんなと思いながら死ぬほど部屋中に殺虫剤を噴霧しまくり、蚊取り線香の両端に火をつけて密室完全スモーク、朝には燻製の出来上がり。

    意外だったのは どくとるT氏は蚊とはしゃべれなかったですか。どくとるTなら話できるんじゃないかと思い込んでいた。ああ、確かどくとるT氏は血液型性格判断否定派だったな。蚊には好き嫌いあるのだろうか血液型に。もしくはArtificial Bloodでも満足するのかな。高濃度ヘモグロビン溶液でも?

    まぁ酒を飲んでる時にこんな会話ばかりなら、僕も「これはジンビームじゃない」とかなんとか言いながら店をでますな。
    なんてながながと失礼しました。さあレイチェル、行こう。

  2. >王殺しさん (笑)いやぁ、このコメントをコピペして新たな詩に作り替えたい気分です。ありがとうございます!

  3. 読んでいて、ふと思ったのですが、人間が一人もいなくなってた荒廃した星に、見覚えがある建物、ジュラシックパークの看板とか、砂に埋もれた自由の女神とか、エッフェル塔とか。蚊が一匹ぶ〜んと飛んでる、そんな地球を想像しました。

  4. >timoleonさん 風情のある光景ですね。映画のワンシーンのようです。そうなったら初めて蚊の存在意義が立ち現われてくる気がいたします。

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