追憶、estación

霧の苫小牧
10歳の夏休み おばあちゃんに会いにゆく
停留所から札幌駅まで高速バスで1本
おばあちゃんの妹と
おおおばさんの次女のミリちゃんが神奈川から来ている
おおおじさんは通勤族で
都心の広告代理店まで毎日1時間半も立ったまま電車に揺られている
今日の私は同じ時間をかけて座ったままバスに揺られている

大谷地バスターミナルを経ると
四角い建物が隙間無く並ぶ街中へとバスは進む
東急のおもちゃ売り場
そごうのサンリオショップ
丸井今井のレストラン
大通公園のとうきびワゴン
手稲のプール
ご飯の時は左利きのミリちゃんの右側に座らなくちゃな
手持ち花火の時も気をつけてね

半導体の大企業が北海道に進出するという
弟の持家の地価も上がるだろうね
どこの自治体も再開発に躍起になっている
役所に勤める友人の自治体でも
田舎に住みたい人向けの宅地開発が進んでいる
札幌にも新幹線延伸と共に大波が押し寄せて
エスタ 4プラ パセオ なんかがみんな無くなったみたい

神奈川におばあちゃんと泊まりに行ったとき
おおおじさんの運転で熱海に行った
ディズニーランドにも行った
ミリちゃんよりも結構歳上のお姉さんのセリさんとは
原宿で待ち合せてタレントショップをハシゴした
ミリちゃんはディズニーとあのアイドルグループが好きだから
逆に自分は好きじゃ無いの

おおおじさんのお葬式で
「パパが笑っててって言ったから」
と親戚の前で微笑み続けたミリちゃんの話では
「あの子が彼を殺したのよ!」
と取り乱すおばさんがいたと
だってミリちゃんは7歳の時の手術で 左利きだから助かったんだよ
代わりに失ったものがあったから
おばあちゃんもおおおばさんも仲良くしてねって言ってたよ

おおおばさんの訃報を母に聞いたあと
セリさんからの手紙を読ませてもらった
お姉ちゃんに会いたい会いたいって言っていたと
最後に声を聞いたのは16年前に彼の訃報を伝えた電話
「ミリの調子が悪くて、人前に出られるような状態じゃないの」
そして「またね」は叶わなかった
おおおばさんとミリちゃんとセリさんがどんな暮らしをしていたのか
知りもしない
愚かな私 非道い私

青空の札幌
バスの開閉ブザー 街のにおい
からっと晴れた雑踏で湧き立つミルキーウェイをわたると
エスタ地上のバスターミナルの階段下で
おばあちゃんとおおおばさんとミリちゃんが待っている
ひとりでよく来られたね
やさしくてあかるいおおおばさんが好きだから
ミリちゃんと仲良く出来るよ
ずっとだよ
 
 
 

投稿者

東京都

コメント

  1. 言葉に、言葉にできない、言葉にしては、いけない。そんな、、、そんなことしか浮かばないです。せめて、その追憶に、ぺけねこを重ね想像し、感じてみようと試みる罪をお許しください。(堅すぎてすみません)

  2. たちばなさんの追憶なのに
    勝手な情景が目の前に浮かんできて
    自分の感情が少し波打ちました。

  3. @ぺけねこ
    さん。めっちゃ優しいですね。
    感じたものを伝えてくださったことがとても嬉しいです。ありがとうございます。
    今作みたいなもの書いておいて、ただ投稿することは、読み手さんに向かう姿勢としては乱暴なのかもなーと思いつつ…。

  4. @nonya
    さん。
    コメントくださりありがとうございます!
    誰かの情景とか感情などと重なることが出来るのは嬉しいことです。
    (結局はコミュニケーションが好きなんです)

  5. ずっとだよ というのは、
    きっとですね。

  6. この追憶は書きながら泣けてくるのわかる気がします。何も知らない読者でさえ「非道い私」のところでグッときてしまうもの。そういえばピヴォも無くなったそうで、、、と知ったかぶり(エスタ云々をググりました)してでも話の続きを聴きたくてこの追憶に身を投じたくなる。

  7. @こしごえ
    さん。ありがとうございます。ポジティブなこともネガティブなこともずっと胸にあります。

  8. @あぶくも
    さん。あぶくもさん優しいです…。
    ありがとうございます。
    そして、エスタ云々調べてくださったのですね!ピヴォとかラフィラ(ロビンソン)は入れようか迷ってやめました(笑)
    中でもエスタが無くなるのが寂しいんですよねー。

  9. 作者の、町(街)への想いを辿ってみました。人の記憶は、多かれ少なかれ町と無縁ではありません。街のにおい… 共感いたしました。

  10. @長谷川 忍
    さん。共感してくださりありがとうございます。
    町、街の思い出がめくるめきます。人と環境が創ったものだと思うので、それぞれに個性があって素敵なんですよね。

  11. @たちばなまこと
    追憶って誰にもありますね。たちばなさんはそれを見事に表現されています。
    私も書きたくなってしまいました。

  12. @レタス. さん
    コメントありがとうございます!
    レタスさんの追憶、読んでみたいです。

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