トレース
雪の降り注ぐ中をLAWSONまで煙草を買いに行く。
俺の意思もまた冷え切っていて、静かだ。
踏み固められた雪を、更に踏み固めるスノーブーツ。
行けなかった美ヶ原を夢想して、苦笑する。
煩悶の季節(とき)は疾うに過ぎて、黒い夢だけがある。
眼前から消え去った、朋友(とも)への連帯。
降り注ぐ中を更に降り注げ、舞う雪に、
俺は俺の領域を全て捧げて。――敬具、慈愛、博物館。
自分はこの目で見たものだけを愛する。
短い邂逅の後の、覚め際の浅い眠りの、
やがて薄明るい陽射しが差し、降る雪が和らぐ。
長い呆けた思考の散策が終わる。
じゃらつく小銭で購うフィリップモリス。
丸くなった猫を撫でる家へ、俺は再びこの独語に耽るのか?
素早い脳の連鎖が生じて、瘧のような諧謔が起こる。
俺は自身の介錯を誰かに頼もうと思う。
頼もうと思うよ、Dear my lovely dog.
俺は君を絶対に見捨てては行かせない。
行けなかった美ヶ原に、
その雪原にざっくりと踏み込んで行く。
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