頌歌

夏の畔で、残照を浴びながら、わたしは薄い抄録を繙く。
汗ばんだ身体を文机に向かわせ、ひとり静かなカナカナを聴く。
自然林のざわめき。言葉だけが澄みとおった時代。
温野菜と味噌汁を温(ぬく)め直し、簡単な食卓とする。
裸電球の下で語られる、訥々とした半日。
やがて皆、健やかな眠りに就くだろう。
アレン・ギンズバーグ。彼らの会話を、もう一度聞かせてくれないか。
冷たいひかりを貫き通して、大きな影を形造る。
左右を履き間違えた靴で、爪先をとんとんと地面で蹴る。
閉じられたアルバムの片隅、刻まれた小さな日付け。
白い音階のうえを、季節だけが今、過ぎ去ってゆく。
それは希望だった、慈愛だった。だから、もう一度聞かせてくれないか。
鳴り止まない夜のスコール。
確かにあの日々、わたしは頌歌を口ずさんでいた。

投稿者

京都府

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