宝冠を天頂に向け放つとき
いわゆる小春日和
アスファルトで粉々に散る蟲の骸
式典になるだろう
紅いリップカラーと黒いジャケットで
宝冠に敬意を
西へ向かう列車のシートで
聴こえます 聴こえます と
電話をかける女
繋がらない 繋がらない と
ひと駅までに数回も
女のドレスはサーモンピンク
頭の毛はそれぞれに絡まり
床に置いたバッグからスマートフォンを出したり入れたり
きのうの自分みたいだ
風に耐えるスタンダードプードル
ターコイズとガーネットに散らされた花
デニムのブリーチのにおい
整えられて行き場を失い風に揺れていたかと思えば
お披露目会だった日よりもずっと早く
驚いて飛び去る鳩のように
今までの何千と生み出した洋服たちと共に
どこか知らないところへ千切れては逝く
ぶち抜かれたフロアの時間軸は一瞬で過去になる
握手してハグして泣いて笑ってやっぱり泣いたりして
ひとり、またひとりと、階段を降りていった
令嬢のまるく透き通った眼が 涙でより一層美しく
救われた気がした
生きていればなんとかなりますよ
なんて
偉そうに
ハイになって笑うのは命の危機に晒されているから
急流に溺れ
さようならに打ちのめされながら
この命日を宝冠忌とする
コメント
サーモンピンク、ターコイズ、ガーネットと、鮮やかな色を散りばめながら、訣れの寂しさと次へ向けての決意のような意思を感じました。
きのうから今日のさようならの時までの時間をこんなにも鮮明に五感豊かに感じ取りかつ記述できることに感服します。「今までの何千と生み出した洋服たち」への愛を感じますね。
@渡 ひろこ
さん。さすがひろこ姐さん、色に注目してしてくださって嬉しいです。その日に目に入った色全てが鮮やかかつくっきりと輪郭を持っていました。忘れられない命日です。
@あぶくも
さん。詩を描くことは絵を描くこととどこか同じで、もしかしたら絵を見てくださった感覚に似ているのかもしれませんね。あぶくもさんにはいつも心を慰めて貰っています(勝手にw)。ありがとうございます!
生きていればなんとかなりますよ
なんて
偉そうに
生きていても、(寝たきりとかではね)なんとかならない場合もある、だから、なんて 偉そうに、と言わなければならない現実をこの三行に見ます。
でも、思いさえ貫けば どんな状態であっても なんとかなる、と肉体的に不具合の無い現在の私は思っちゃうけど。
それに、ちょっと前の私は思った。「死 以外は、なんとでもなる」と。だから、この三行に魅力を感じます。
そして、こころが生きていれば その時どうなっていようとも大丈夫だ、と思いたいです。
たちばなさん、この詩を書いてくれて ありがとうさま☆
宝冠忌 すてきな命名ですね☆^^
@こしごえ
さん。いつも気にかけてくださりありがとうございます☆^^
” 生きていればなんとかなりますよ
なんて
偉そうに ”
これは私が上の人に向けて言ったことを思い出しております。偉そうに言ってしまったぜ、みたいな。
「死 以外は、なんとでもなる」ほんと、そうだと実感し続けており、これからもそれは更新しようとしています。
読み進めるたびに美しかったです。感情と色彩のもつれからまり合いが頭の中が構築されて、アートになっていく感覚でした。