戒具
過ぎ去った偽りのマカロニウェスタン。
西部に生きる破落戸(ごろつき)たちが、一人の女を巡って、
熾烈な決闘を繰り広げる。淀川長治の死後、
俺も暫くは完黙を続けた。
赤シャツ隊のガリバルディにそっくりな男が、
遊歩道に目を落とし、シケモクを探していた。
両手足と腰に革製の錠を掛けられ、ベッドに拘束されたまま、
俺は独房で独り天井を見上げる。時折看護師が来て監視窓から覗く。
鳴り響いた電話は、涸沢からのものだった。
穂高岳を見上げながら、残雪を食っている友人。
auが途切れ途切れに聴こえる。
俺も昔登ったよ、二十五年にはなる昔さ。
いつも夜空が綺麗で、当たり前のように紅葉も綺麗だ。
ぺちゃくちゃ駄弁っているうちに、下界でも澄んだ秋が始まる。
ボイラーの剝き出しになった部屋で、ひたすら待ち続けた。
不明の誰かから届き続けた救難信号。
俺は今でも、あの日々を思い出そうとしている。
鍵穴がガチャリと音を立てて、地下室の重たい扉が開く。
俺は枷を外され、この独房を出される。
リノリウム張りの床に制圧されながらも、猶も把持し続けた抵抗。
〈もうすぐやって来る! 死者たちのキャラバン!〉
呼び込みの上手な人が、実は隣人だったりする。
広い境内の南禅寺に行こうよ、一眼レフをぶら提げてさ。
俺は今はただ君だけに信号を送り続ける。
それが届かなくても、届いても、ただそれだけが俺の務めだから。
コメント