グリコのおまけ
わしは実は ふたごだったと聞かされた日
そして わしのふたごの兄貴だった人は生後まもなく死んだのだと聞かされた日
ねぇちゃんと グリコを分けて食べるように わたされた
ねぇちゃんに 言うた
「わしは、グリコのおまけのほうじゃあ 思う
そんで 生後まもなく死んだという わしに たぶん そっくりな わしの兄貴は
グリコじゃと思う。」
ねぇちゃんは 喧嘩になると いつも わしの頭を おさえて
遠慮なく キックするような そもそも碌な ねぇちゃんじゃないけど、
あんときは なにか火がついたみたいに 真っ赤になって 怒った
「なんでね あんたが グリコで、その死んだ子が おまけ なんじゃけぇね」
「なに言うとるんじゃ グリコキャラメルいうもんは おまけが欲しぅて
みんなが買うんじゃ」グリコきゃらめるの きゃらめると おまけのどっちが価値あるかについて 力説して、ねえちゃんは真っ赤になったまま言うた
「ばか。
あんたは、おまけなんかじゃないんじゃけぇね」 ねぇちゃんは怒鳴って背中向けた
あれは
泣いとったんかの
有る時、隣に住んどった女が
わしが ふたごじゃて しらんはずの女が
隣の家の壁を わしと そっくりな人が すりぬけて
ねぇちゃんの部屋に 入っていった言うたことがあった
ただ わしに そっくりな人は わしの服じゃない服を着とったらしい
母さんが まっさおになって それは わしが物心つかんころのお気に入りの服じゃ
いうた
わしは 本当は ふたごで ひとりは死んでいる話が本当で
わしのふたごの子が わしの家に来たのなら
なんで ねぇちゃんに 逢おうと するんじゃ
わしは もうひとりの自分に似たヤツに
どれだけ合ってみたいかわからなのに わしに そっくりな そいつ
そいつ 泣いとったんかの
それが知りたかった
隣に住んどった女は わしのことを幽霊じゃの 好きなことを言いよる
へんな読経が すごい熱になるし さすがに
わしらの心も折れそうじゃった
そんで わしら家族は 引越しすることにした
父さんが 突然、「家を買うた」って言って
わしは 下見にも行かんで 引越しした
はじめて行った場所のはずなのに ねぇちゃんは 夢で
わしに似た もうひとりの子に
どんなところに引っ越すかおしえてもろうたとか言って
普段は方向音痴のクセに 引越しの道順をつぎつぎ喋った
そんで わしに 「あんたはあの子に守られとるんじゃけぇね」って何回も言うた
わしは もうひとりのわしとは違って ちゃんと成人した
けど 結局 ねぇちゃんほどには 長生きせんかった
小学生のころ ねえちゃんに「いちどしか言わん よう聞け。わしは 早死にぢゃと思う」と確かに言うた。言うた理由は、死んでも言わん。
実際に わしは 今、死んどる。ねぇちゃんは 夏が近づくたびに泣く
「あんたは おまけなんかじゃ ない」言うて泣く
別に泣いても かまわんが、
わしが言いたいのは、生きとらん人間は 泣けん。
死んでも星になんかならんて わしは生きているころに よう言うた
じゃけぇ わしは星なんかじゃない。
星じゃないし わしは 泣いたりもせん。
だいだい、うまれつき ふたごの人間だけが ふたごじゃ 思う考えは
気のせいかもしれんぞ
わしに言わせりゃ だれもが みんな ふたご みたいなもんじゃ
だって、みんな光と影のセットで息をしとるんじゃろ
だれもが生の自分と 死の自分が 背中合わせの
ふたごみたいなもんじゃと わしは思う
生きとるとき、死のことを 遠く離れていると思っていても
距離的にはそんなに離れてなかったり
死のことばっかし 考えとるやつの 死は、あんがい次世紀の遙か先かもしれん
とにかくな
負けるな
わしは いつも傍におる
ねえちゃんが わしのことを忘れない限り わしは おる
そばにいて まもりたいと 思おとる
ねぇちやんが なにか 今日も わしに手紙を書いている
相変わらず支離熱烈な手紙なんで 気の毒だ。悲しまんでほしい。
考えてみてほしい。ねえちゃん、あんたが もしワシで 姉のあんたが
弟より先に死んでいるとする。
そんで、姉のこと思って 泣いて、きちがいじみた詩とかいうもの
書き続けているとする。あんたは それで
嬉しいか?
な それは つまらんじゃろ
遠慮のう楽しいこと いっぱいしてほしい
いっぱい笑ろうてくれ
綺麗に生きてくれ
ときには
泣いて ええけ
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