曇天

 ラッシュアワーを過ぎて
 まばらな乗客
 停車したその駅では誰も席を立たない

 低い土手が迫る人影ないホーム
 竹の混ざった雑木が金網で仕切られていて
 絶え間無し 葉をおとしていた

 二輌電車の扉は閉まろうとする

 その傍らの席に居て
 見開いた私の目が
 「あれは!」
 声に出せずガラス越し追いかけて
 見失ったもの

 雑木の散り落ちる一葉で
 あるかのようでいて
 浮遊し上昇していったモンシロ蝶

 走行する車窓から十一月も半ばを過ぎる
 空をみる
 墨絵のなかに迷い込んだかの様な
 曇天が拡がっていて
 まなぶたの裏に映る蝶の羽の残像を
 再びそこに見失う

 午後、もう一度同じ路線で帰る時
 停車する あの無人駅は雨の中に
 あるだろうか

 ただ ぼんやりとそれだけを思った

投稿者

滋賀県

コメント

  1. もしかしたら電車はその無人駅に二度と停まらないかもしれない。。。
    そんなミステリアスな気持ちにさせられるような
    モノクロの情景が目の前に浮かびました。
    モンシロ蝶だったのが、良いなと思いました。

  2. @nonya
       様へ

     ご感想のコメントを、お寄せくださって嬉しいです!
     どうもありがとうございます。(*^^*)
     湖西を走りますローカル線、何の変哲のない無人駅の
     晩秋の光景です。そうなのです!アノ、モンシロ蝶が、
     効いているのです。数秒も、無かったと思いますが…
     私の心をガッチリ捉え。この原稿は仕上げる迄に何度も
     書き直しました。
     わたしは、ときどき…「ぼー…ぉぉ。」としているのに、
     書かざるを得ない衝撃に突如、襲われるのです。誰にも
     分からない様な、たった一コマのシーンなのに。私には
     それがメインテーマになってしまう。
     「曇天」というタイトルで、この作品を書けたことに喜びを
     感じています。

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