老夫婦

老夫婦

僕の、青い靴。
本当は、僕のじゃない。
僕が、金を出して買った。
青い靴は、青い靴だ。
したい格好をしたい。やりたいことをやりたい。
みんなは違う。
みんなと仲良しでいたい。
はみ出し者になりたくない。
そのために無難な格好をして、無難な人間でいたい。
やりたいことをやるのは、我儘だ。
人生は短い。
いつになったら、みんなはやりたいことをやるんだろう。
やりたいことが出来ない人生が、いい人生なんだろうか?
義務もいいけど、義務だけが大事なら、ファッションは要らない。
遊びも要らないし、音楽も要らない。
義務のための音楽であり、ファッションなら、アドレナリンをあげて、子供を作るだけの遊戯。
若いということは、明るい。みんなキラキラしている。
それよりも僕は、老いた老夫婦に興味を持つ。
うらびれたトンカツ屋。客が入らず、老夫婦が二人であまり楽しくなさそうにやっている。
僕はひねくれて、迎合しない人にいつも興味を持つ。
この二人は特別楽しそうでないけれど、色気でムンムンのクラブ、キラキラな男女の世界より、僕の求めているものが本当はあるのではないだろうか?
青い靴。ビジネススーツ。ビシッとしたネクタイ。イタリア製の腕時計。語学の勉強に海外留学。
ハリウッドでは銀幕のスターを飾り、ミラノの海をバックに、ピザを食べながら、水彩画を描く。
無難な人生で安息を求める人には縁のない世界。
時々群れというものが放つキラキラ感に、スカートの中を吹く風のような、寂しさを感じる。
楽しいものは楽しくない。明るいものは本当はとっても暗い。あの老夫婦なら、僕のこの思いに、深く深くうなづいてくれそうな気がする。

投稿者

静岡県

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