火と計画

人類に火を与えねば
おれはそう言った
好きにしろ、白鳥へ変身中だったゼウスはそれだけを言って飛び立った
火を手に入れた人類は1万年の氷河期を生き延びた
人類に水と風を
ゼウスはおれに一瞥を与えると頷いたように見えた
無言のまま、再び蜂起した巨人たちの鎮圧に向かった
環境と調和した人類は戦争のない歴史を紡ぎ始めた
人類に新たな地を約束したい、と、おれが言い出したとき、
巨人たちとの講和を考え始めていたゼウスは片方の眉だけを挙げておれをじっと見た
人類は大丈夫だよ、おれは確信していた
人類は銀河系を開拓して多くの偉大な種族を生み出した後、宇宙から立ち去った

人類から幾重にも分岐した有機物、無機物、非物質の種族たちをおれは愛せなかった
彼らにとっての神は人類であり、おれは神の神、愛着を持つにはお互いに遠すぎた
人類が無断で去ったためにおれは初めからやり直さなければならない、いや、
それどころか、まずは掃除だ
裏切られたと思う
おれは何を間違えた?
人類は神を忘れてしまった
そして神の知らない場所へ去ってしまった
捨てられたおれは宇宙に放火して廻る
巨人たちと講和して戻ったゼウスは言った
お前が失敗することは分かっていたよ、プロメテウス

分かっていたなら教えろよ
全知の意味ないだろ

ゼウスは全知だが、決定論者ではない
おれがゼウスの予測を知れば、おれは計画を変える
するとゼウスはまた予測をする、そしておれは計画を変える
無限の計算が発生し、時間が止まる
ゼウスはおれに言った
お前ひとりがプロメテウスだと思うなよ?
教えたがりの計画家は大勢いるんだ
それに教えられなくても人類は自分たちで可能性を探ったはずだ
それが知性だからだ
知性に計画は必要ないんだ
知性に必要なのは地図だけだが、その地図も与える必要はない
知性は地図を描くものだからだ

人類は自分たちの地図を作って宇宙から出て行ってしまった

人類のまがいものを根絶やしにするため、おれは銀河と銀河を結ぶ謀略を巡らせる
人類の正統な後継者の座を巡って分裂し、争い合い、次の神を目指して自滅しろ
おれはひとつひとつの種族に火を与える

投稿者

北海道

コメント

  1. これが詩であり、SF小説ではないのは、言葉が比喩だからです。読者は言葉を消化し、新たな意味を与えます。私は壮大な宇宙叙事詩を見ることができました。ゼッケンさんありがとうございました。

  2. まずは感覚的に読みました。
    “お前ひとりがプロメテウスだと思うなよ?”
    の一行が、なんだかとても好きです。
    ゼッケンさんの詩、好きだなあ、と思います。

  3. @たかぼ
    >私は壮大な宇宙叙事詩を見ることができました。ゼッケンさんありがとうございました。
    Good afternoon, Dr. Takabo。気分はなぜかHAL9000、ゼッケンです。ポッドベイのドアを開けろ→ご期待に添えず、残念です。

    >これが詩であり、SF小説ではないのは、言葉が比喩だからです。
    力強い応援。たかぼさん、ありがとうございます。しかし、なぜか最初から、たかぼさんは私をかばおうとしてくれているような気がする。なんだろなんだろ、SFと呼ぶには言葉の緻密さが足りない。でも、みんなの想像力をおらに分けてくれ、そしたら、これでもなんとか詩にはなるはずだ、的な。ダメ、たかぼさん、ゼッケンを甘やかしちゃ。ご期待に添えず、残念ですって、すぐ言い出すから。

  4. @たちばなまこと
    >ゼッケンさんの詩、好きだなあ、と思います。
    いやあ、ありがとうございます。

    >まずは感覚的に読みました。
    ふむふむ。ふむふむ? ふむふむぅ。。。まずはって言っておいて次にどう読んだかの感想がない! これは特殊感想詐欺ですよ、ゼッケンです。たちばなさん、こんにちは。「まずは」でボリューム感を出しておきながら、実際はそのひとことで言い終わる。高等なコメント戦術。これね、みんな忙しい中、ネットに詩を投稿してかつコメントまでつけるという時間が足りないアルアルで、いろいろ言いたいことはあったけど、なかなかまとまらなくて時間足りなくなったよというシグナルの「まずは」です。本当はどうか知らんけど。だけど、まずは、があろうが、次に、がなかろうが、コメントもらえたら、やっぱり励みになる。ありがとうございました。

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