花をかがす少女

うちの いえには おおきな にわがある
たくさんの きや はなが うえたある
おかあちゃんが いっしょうけんめい そだててん
まるで じゃんぐる みたいやな
って おとうちゃんが いってたのを ときどき おもいだすけど
うちは じゃんぐる って なんのことか ようわからへん
おとうちゃんは もうおらん

うちは あたまが わるいから
どんなきや はながあるか
おかあちゃんに なんかい きいても おぼえられへん
これはばら これはすみれ
それはなんちゃら あれはかんちゃら
おかあちゃんは やさしいから
うちが おぼえられへんくても
そのたんびに ていねいに おしえてくれる
うちは そんな おかあちゃんが すきや

となりの いえには はなむらのおっちゃんが すんでる
はなむらのおっちゃんは やさしいけど ちょっとくさい
いつも うちに おかしをくれたり あそんでくれたりするから
わるいひとじゃないのは わかるんやけど
やっぱり ちょっとくさいから
うちは あんまり はなむらのおっちゃんは すきやない

あるひ おかあちゃん しごとで おそなって
ひとりで おるすばん することになった
おばあちゃんが きてくれることに なってたんやけど
おばあちゃん そのこと わすれてもうて 
うちは いえのなかで ひとりで ずっと
てれびみたり おもちゃであそんだり してた
ぴんぽーん って なって
おかあちゃん かえってきたか
おばあちゃん おもいだして きてくれたんかな
って おもって げんかん あけたら
はなむらのおっちゃん やった
かいらんばん もってきてくれはった
あれ? おかあちゃん おらへんの?
あんた ひとりで おるすばんしてんの えらいなあ
って いいながら いえのなかに はいってきた

はなむらのおっちゃんは へやじゅうを じろじろ みたり
れいぞうこ かってに あけたりして
いややなあ って おもったけど
ぽけっとから あめちゃん だして くれて
まあええか って なって
でも はよ かえってくれへんかなあ って おもってた
はなむらのおっちゃんが きゅうに
ずぼんと ぱんつ ぬいで
おちんちんを うちのてに にぎらせて
ごめんやで ちょっとだけ がまんしてな
おかあちゃんに いうたら あかんで
あめちゃん なんこでも あげるからな
ぜったいに いうたら あかんで
って へんなこえで いいながら
はなむらのおっちゃんの おちんちんから
なんか しろい どろどろのんが でてきて
くさい いきが うちの かおに かかって
いややなあ って おもったけど
あめちゃん なんこも またもろて
まあええか って なって
はなむらのおっちゃんは かえっていった

おかあちゃんに いうたら あかん って
はなむらのおっちゃんは いうてたけど
あめちゃん なんこも もろたし
ありがとう って いうの わすれてもうたし
だまってたら あとで おこられるかも って おもって
おかあちゃんに ぜんぶ ちゃんと いうた
そしたら おかあちゃん いままで みたことないような
えほんにでてくる おにみたいな かおになって
こわくて うち おこられる って おもって
なんか わからんけど なみだが いっぱい でてきて
そしたら おかあちゃん うちの からだを ぎゅうって してくれて
いっしょになって ないてた
おこられる わけじゃなかったから よかったけど
おかあちゃんが ないてる すがたを はじめてみて
わるいことした きぶんになった

なんにちかして いえに けいさつのひと きた
はなむらのおっちゃんが ゆくえふめいに なったって
うちは ゆくえふめい ってなに? って おかあちゃんに きいたけど
おかあちゃんは なんにも おしえてくれへんかった

うちの いえには おおきな にわがある
たくさんの きや はなが うえたある
ほんで はなむらのおっちゃんが つちのなかに いてはる
そこから いくつかの はなが はえたある
きれいで いいにおいの はな
なまえは おかあちゃんに きいても わからへんけど
うちは そんなはなを さかせる
はなむらのおっちゃんのことが ちょっと すきになった

[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.069: Title by enn]

投稿者

大阪府

コメント

  1. 読み入りました。
    関西の言いまわしなのか少女の言い間違いなのか不思議なひらがなが浮遊していて、でもそれらからの爪痕は疼くのです。
    すごいな、トノモトさん。

  2. とのさん、えらいのかかはりましたなあ。
    なんちゅうかえいがてきっちゅうか。
    ほんで、はなむらのおっちゃん、ええにおいにならはってんなあ。

  3. なるほど最近は少女ブームなのかもしれない。

    いや、トノモトさんの切り取るこの世の醜悪だったり、市井の狂気だったり、そこらへんにある殺しだったり、おじさんとおばさんの恋だったり、ほんのちょっとほっこりだったり、ほんとに読ませるな。
    いつの世も、っていう言葉がこの歳になった僕のお気に入りの言葉なんだけど、そういう意味も含めてこの作品はいい。終わり方もね。

    庭に咲くのはやっぱり薔薇じゃないかな。おとうちゃんもそこにおるかな。

  4. ところで「かがす」ってなんだろなと気になった。「嗅がす」?
    そのへんの違和感が「うえたある」につながるのかなぁ。

  5. 個人的な好みの話をして申し訳ないのですが、一番好きなタイプの詩は、詩と小説の間にあるようなものです。しかし詩と短編小説とはやはりちょっと違うと思うのです。それを言い出すと長くなるのでまたの機会に。で、この詩ですが、大好きです。

  6. この詩の力に引き込まれて読みました。
    いろいろとあるでしょうが、おかあちゃんの少女に対する無限の愛を感じます。

  7. 文体を見ながら、イヤな予感しかしなかったんですが、「母影」のような話か、「岬の兄妹」のような感触か、「女生徒」のようなんだといいなとか。引用出して、目を背けたくなるってことは、自分の中に現実的に受け止めたくないようなことがあるからだと、率直に思います。

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