小路
いつの頃からだろうか、町の人しか知らぬ路地裏に人知れず小路があった
小径に添ってうち続く屋敷という屋敷はどれも広い庭園を誇り、
塀沿いには見上げるほどの大木が並び、
春となく秋となく、朝に夕べに
豊穣に花弁を飛ばし、惜しみなく木の葉を散らした。
町の人らが繁く通うたびに
どこからともなく風の訪ないがあって、
耳たぶを這い髪に触れて
心という心に瑞々しい吐息を溢れさせた。
いつしか町は廃れ、囁きも聞こえなくなった
いまも夜となく朝となく、
夏の夜にも冬の朝にも、
小路は微風に切ない香りを載せて
路面には落ち葉が散り、かさこそと鳴っているという。
コメント