プレゼント

拳銃、拾っちゃった
きみはおれにそう言った
耳元でこっそりと
教室の目立たない席に座った目立たないおれにきみがそれを打ち明けたのは、
きみはおれが弾を拾ったことを知っているという意味だろうか?
もちろん、そういう意味だろう

取り引き?

ううん、協力しあおう

協力とは共犯になろうということだとおれは解した
それはタダで、という虫の良さを含む
おれは立ち上がらなかった
きみは前髪をかきあげる
おれに自分の顔を見せている
近くでよく見えるように
額の皮膚の白さから視線を外せなかった自分におれは屈辱を覚える
清潔に手入れされた肌を見なくていいようにおれは目を閉じた
これが精一杯だった
敗北感に打ちのめされたおれは悪あがきをする
誰を殺したいの?
なにそれ、重要?
だって、協力しようって
きみは身を引いて、おれをじっと見下ろして言った
キモチワルいんですけど
なぜ、おれが気持ち悪いと言われるのか、おれには分からない感情だ
拳銃に込める弾丸を欲しがっているのなら
誰かを殺したいと思っているんじゃないの?
なんのために拳銃に弾を込めるというのか
きみはおれの前の席に改めて腰を下ろすと、同じ視線の高さでおれを見て
ごめん、と、きみは言った
おれの乏しい表情を一言一句漏らさず読む
ふたりで”協力”して人を殺しているところを想像したらゲロ吐きそうかなって
カーストの違いをおれに思い出させようとしているようだ
けっきょく人間は心理の動物だ
人間の社会では心理エリートが優越する
協力は撤回するね。いくら?
おれは弾丸を3発持っている
父親と母親とその後、自分の分だ
1発、(だけならいいよ、その代わり、使い終わったら拳銃を貸して欲しい)
言うときにきみの顔を真正面から見てしまったおれは慌てて手を振り、そういうんじゃなくて、
()、だけならいいよ、その代わり、使い終わったら拳銃を貸して欲しい
早口で言うおれにきみは無表情でただ手のひらを差し出す
おれはポケットから弾丸をひとつ、きみの手のひらに落とす
賢者の贈り物みたいだね
と言って、きみは席を立った
おれは、あの話ってそういうタイトルだったんだ、と思った

翌日、制服姿のきみは銀行のカウンターの前で拳銃を天井に向けて一発ぶっぱなし、カネを奪って逃走した
数時間後に逮捕されたが、拳銃は見つからなかった
拳銃はおれのところに宅配で届いた
短い手紙には、すっきりするよ、と書かれていた

投稿者

北海道

コメント

  1. ゼッケンさんの作品はいつも象徴的で考えされられます。拳銃と弾丸、これらはそれぞれ単独では全く役に立たないですが、ひとたび一緒になると、それを手にしたものが世界を征服できるのではないかと錯覚するほどの、とてつもない破壊力を持つものに変わります。そのような二つの物って他に何があるだろう? とか。弾丸が3個だったのは、まるでランプから出てきた魔人が三つだけ願いを叶えてくれるかのように、三つの願いを叶える力のように思えます。その一つが「スッキリすること」だったのは何という現代的解釈でしょう。さて後の二つはどうなることやら。

  2. >そのような二つの物って他に何があるだろう?

    それはあなたとわたし、愛ですね、愛。ひとりじゃないってー、ステキなことねー。ゼッケンです。たかぼさん、こんにちは。

    >弾丸が3個だったのは、まるでランプから出てきた魔人が三つだけ願いを叶えてくれるかのよう

    くぅー、そこ読んでくれる? さすがじゃ、たかぼさん。作中、
    「おれは弾丸を3発持っている」
    「父親と母親とその後、自分の分だ」
    となっているので、そのうち、一発をなくすと話者の計画はもう成立しない。
    つまり、浪費することで作中の「きみ」は「おれ」に賢者の贈り物をするという筋立てです。
    とはいえ、屈折している「おれ」が後の二つで何をやらかすやら、です。

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