画詩

画詩

こないだ初めて聞いた話し
12年くらい前に同級生だったこが
なぜか振り袖を引き裂いて
それで首をつって死んだそうだ
僕が覚えてるのは快活な
誰とでも仲良くしてるやつだった
もちろん随分昔の記憶だ
思い違いかもしれない

久しぶりに歩くこの道の
たしかこの場所に
僕の初恋のこが住んでいた
いいやたしかなんて違う
この場所に守山さんは住んでいた
ボーイッシュだけどとても優しいこだった
この道は僕の行き帰りの道
僕はいつもタイミングをはかり
守山さんが朝玄関を出るのを
見ながら学校に向かった
300回以上は
玄関を出るのを見ただろうな
毎日
この場所
今は違う名前の表札

あのころ僕と守山さんは
違う世界の住人だった
なにさ違う世界って
今ならばそう思うかもしれないが
僕はひたすら人を傷つけることばかりに
生活のすべてをあてていて
それ以外にすべがなかった
自意識の刃物を収めることができなかった
守山さんはバレー部で
その躍動する健康そのものの足にすら
激しく泣きたい気分にさせられることもあったし
チームメイトとハイタッチを交わすたびに
地面が崩れるような眩暈がして
そいつらを撃ち倒したくなった
ただ僕は守山さんを傷つけることだけを
最大に恐れた

学校を卒業してしばらく
同級生の誰とも会わなかった
ある時僕が麻雀でぼろかすに負けて
よれよれの煙草をくわえて歩いていると
向こうから華やかな集団がやってきた
その日は成人式だったらしく
華やかなのは着物だった
そこに守山さんがいて
僕は足元見て歩いてたので
気付かなかったのだけど
向こうから声をかけてくれたんだ
久しぶりぃ
成人式行かないの?
桜をあしらったその着物と
首に巻かれた真っ白いファー
そして大人っぽくなったその顔が
直視できずになんて答えたか覚えてない
だけどそれが
守山さんに会った最後だった

あれから僕は育った町を
遠くはなれて
足を踏み入れることはなかった
用もなかったからね
よく行った中華屋ももうなくって
駅から何度も道を間違えた
川辺に出たとき一瞬なつかしさが込み上げたけど
向こうの高層マンションが何本も
台無しだ
僕は守山さんの下の名を
川の流れに繰り返し
繰り返し呼んでみた
あの振り袖にたゆたう桜の花びらが今もはっきりと目に浮かぶ

投稿者

岩手県

コメント

  1. 第一連の印象を最後までしっかりと引っ張って、引き裂かれた振袖の柄が気になってしまった。すごい作品です。

  2. 一連目で「壮絶な自殺の状況」と「明るく友人の多い人物」のギャップという全体の構造が示されています。この構造がそのまま、衝撃的な一連目と、甘くノスタルジックな二連目以下の対比という形で繰り返されます。読者が一連目で味わった断絶感が、そのまま全体を覆う断裂感になっています。個人が踏み込めない他者との断裂……

  3. 作品前半の、鮮烈な守山さんの死、以降の、守山さんの描写、作者の苦い自我…。最後まで読み終え、再び、冒頭の箇所を読み返すと、故郷の風景と相まった、作者のやるせなさが伝わってきます。私もそうですが、故郷は、懐かしさばかりではありません。

  4. ぎゅっと胸が苦しくなって。
    守山さんの名前を何度も呼ぶところで涙が出そうになりました。
    なんだろう、海って過去の出来事も受け止めて保存してくれてるけど、川の流れって残酷なところあります。一切洗い流されてしまって残ってない感じ。取り残された感じ。断絶が痛いくらい伝わってきました。

  5. ある人をその人の自宅で看取ったときに、往診のお医者さんが
    「死って、案外淡々としたものなんだよね」
    と、笑顔で言っていたことを思い出しました。

  6. 拝礼
    残酷なことを私は言うかもしれませんが。死に方はどうあれ、死ぬということは自然なことだと思います。死にもいろいろとあるでしょうけれど。

    しかし、この詩の最後のほうの4行のところで特に、「僕」が持っている守山さんへの愛情を感じます。
    そして、その最後のほうの4行が要となって、この詩の強度が確かなものとなっていると感じます。
    拝礼

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