夢
皐月の若葉が茂る
木漏れ陽のベンチの下
隣のベンチには文庫本を読みふける少年がいた
たぶん少年が連れて来たのだろう
6㎏は越えている太ったブチ猫がいる
ぼくは遠慮がちに隣のベンチに座った
おもむろに猫がぼくの膝に
乗っかってきた
にゃぁ~と一言
ゴロゴロと喉を鳴らし前足をたたみ
猫は居眠りをする
その温かさにぼくも眠りに誘われた
池の傍らに目覚めたら
猫が「ご主人さま、ようこそいらっしゃいました」と言う
「此処は何処だい…」
「此処はまどろみ池の畔なのです。よくごらんください」
水面には睡蓮が咲き誇り
ときおり魚がポチャリと水面に跳ねる
トンボや蝶が舞っていて
暖かな風が頬を撫でてゆく
あくびをして
「此処は良い処だねぇ…」
「それはようございました。あちらの東屋に行ってみますか?」
「そうしようか…」
猫は先に歩き
時折ぼくを振り返りホトホトと歩く
東屋には文庫本を読んでいた少年が釣り糸を垂れていた
「こんにちは。何が釣れるのですか?」
「虹色タナゴが釣れるんです」
オレンジ色の玉ウキがピクピクと揺れて
少年は細い竿をシュッ!と合わせると
プルプルと虹色に煌めくタナゴが水面から揚がってきた
少年は針を外すと猫に向かって虹色タナゴを放り投げた
猫は魚にジャレてパクリと飲み込んだ…
そこで薄い幕が揺れて夢から醒めた
隣のベンチに少年の影はなく
ブチ猫もいなかった
あれ… 炬燵にもぐっていた
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