春のオリオン

今にも地平に溺れそうなオリオン座と、細い月が道連れていく午前零時過ぎ。
街灯一つない道では、遮られることのない風と満天の星空が道しるべだった。
今日に至ってもなお理解できない愛情と恋情の違いと、おいていかれた憧れ。
同じ世界の知らない場所で、初恋は燃え尽きてベッドの上に横たわっていて。
ひとりにしては広い部屋に、買いだめた食糧とちっぽけな段ボールが転がる。
惹くために用意したあれこれも、ごみステーションに持ち込む予定日は間近。
声と息は散らばった星くずを隠せないまま、あっけなく闇に霧散していった。
想い出は、花のように、いずれ枯れて散るものと知っていたはずだったのに。
胸の高鳴りと、震える手と、上ずった声と、ぎこちない表情は、二度目だと。
夜明けはまだ遠く、溺れたものの末路は、時間の流れだけが、明らかにする。
今はただ、沈みゆくオリオンと飲み交わす晩酌のために、とびっきりの酒を。

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