眠くなった海の話
眠くなった海の話を
しようと思った
暮らしていくことが
一日の中にあって
踏むこともたまにあり
替わりのものもいくつか
色で決めておいた
人は残していく
大切なもの
捨てられなかったガラクタ
命のない身体
命のある身体
葬儀の日にちが取れず
父はしばらくの間
防腐の処理をされ
居間のベッドに寝ていた
ふくよかに見せようとしたのか
こけていた頬などに
詰め物がしてあった
何か違う、と
母は不満そうだったけれど
朝、居間にいくと
父の上に
突っ伏したまま眠っていた
学生の時東京湾を泳いで渡った
生前父は自慢げに話した
その話を聞くたびに
わたしは眠たかった
冗談かもしれないし
誇張かもしれない
父あるいは、わたしが見た
夢の話だったのかもしれない
眠たくなった海の話は
やはりしまっておくことにして
もう親戚も集まらないような命日を
家族で過ごした
コメント
こんにちは。
はじめの七行が、もう少し踏み込めば
> 色で決めておいた
この言葉が作中にあることは、とても大事なことに思えました。
やはり読者としての私はどんどん吸い込まれていきます。
@wc.
wc.さん、コメントありがとうございます。
ちょっと前半と後半で分断があるかな、という感じがしますが、何だろう、その一方でこの流れしかなかったのかな、とか。
色で決めておいたのところ、多分、どこかに繋ぎとめているのかもしれない。