きのうは満月だった

2月、冬の終わりかけに大雪の予感と春の風
雪国に降る雪は近年、気まぐれに積もってみてはそれが日光に解かされるまで空にとどまって、
忘れた頃また降り出す
2,3それを繰り返して、冬は去っていく

今は茶色く汚れた雪山が、田舎のだだっ広い駐車場にいくつか残されているだけ
店の者が時々それを崩して、周辺をびちゃびちゃにしている
アスファルトが雨上がりのように、黒くなって太陽を浴びている
黒曜石の光りかたに似ている美しさ

昨日は障子戸が白く浮かび、ほんものの闇が来ない夜だった
雪明かりはないはずだった
下水道にも、つついて落とした雪は残っていない みんな水になった
昨日は満月だったらしい あれは月明かりだったのだ
見ておけばよかった

月をはじめて見たのはいつだったろう
写真だったのではないか あるいはテレビだったのかも
私の中に根付いた月は、大きくおそろしくクレーターをさらけ出して
うさぎの不在と、禍々しさがはっきり主張されていた
実物はそうではない
自分の目と、月との間に何物も介さず直接見つめ合ったとき
月はしずかにほほえんでいた
ちっぽけで街灯に負けていた 星よりも見逃されていた
私は月を知らなかったと、少年時代を過ぎた頃に知った
無知の知すらも、私は得られていなかった
ようやく知らないことを知れた
それから月が嫌いになった

星のほうが好きだ 惑星のほうが好きだ
けれど昨日の満月、見ておけばよかった

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